自分という生き物の本性を知っているだろうか。

見せ掛けだとか、まあよく言うヤツだ。裏表、本音と建前。
何となく心を許したらしい(その理由が数回寝たからだという下らなさだが)
女がピロートーク代わりに口にする言葉。
本当の自分を見せる事が出来ない、だとか
あんたになら本当の自分を見せる事が出来る、だとか。
下らないと思いながらそれでも
その部分を押せば相手は容易く騙せるのだからその手は使う。

分かっている、誰よりも理解していると呟けばいいだけの話だ。
どこまでを信用しているのはか分からないが
阿含からしてみれば都合が悪くない為そのままにしている。
飾る必要等どこにもない。飾り必要が俺にはない。
何故なら完璧だからだ。
俺が必要とするヤツなんてどこにもいやしねえが、
俺を必要とする奴らなんざ腐るほどいるじゃねぇか。

「なぁに、どしたのよあんた」

そんな怖い顔して。
の声に思わず引き戻された阿含は何だよ、そう呟いた。





今日の収穫はまあ程々であり、
丁度午後の一番安い時間にホテルに入りやる事はやり
女が気持ちよさそうに眠っている最中(阿含が真っ先に寝入ったからだが)
携帯にメールが入りそのままホテルを出た。

メールの内容は夜に行われるらしいイベントの事であり差出人は
元々は別の場所で行われていたイベントにて出会い、
それから色んなイベントで顔を合わせた。
よくよく話を聞けば仕事で来ているらしい。
それからというもの話をするようになり
イベントの頭数合わせに格安でチケットをくれるようになった。
にしてみれば仕事上であり阿含にしても安く遊べるのだから問題はない。

同じ職場の違う部署で働いているらしい彼氏がいて、
その彼氏が最近浮気をしているようだとか何だとか。
そんな話でも不思議と悲壮感がなく、
聞いていてどうでもいい事のように感じられるのは何も阿含がその話―
の話に興味がないから、それだけが原因ではないのだろう。
希薄なのだろうか、否それではない。
そんな言葉ではなく重く深い場所まで他人を入れないからだ。
単にネタとして振っているだけで
あり相談だとか愚痴だとか、そんな話ではないからだ。
自分の事は自分で決める、あんたはこの話を聞いて笑ってりゃあいい。
は口に出さず、それでも全身からそんな雰囲気を醸し出している。
ああ、だからだ。だから話し易いのだと知った。

「あー駄目ね、今日のイベントはバンドが悪い」
「いつもみてぇにトランス垂れ流しときゃよかったんだよ」
「新規開拓ってヤツ?狙ったのよ」
「見事に失敗してんじゃねぇか」
「場所が悪かったのよねぇ」

と阿含は2Fからそれなりに盛り上がっている前方部分を見つめる。
こんな場所で確かに意思の疎通は二人きりにも係わらず
はまるで阿含を見ていないのだから笑える。

「今度はさぁ、あんた女連れで来てよ」
「あ?」
「いるんでしょ?前まで連れてたじゃない」
「へっ、どいつだよ」
「どれでもいいから」

自分を必要とする意味が違う。

「気が向いたらな」
「最悪、何で今の流れでズレるわけ?ドラム」

自分で振っておきながら返事さえ聞かない
の横顔を見つめながら色んな事を考える。
浮気をしているらしい男の顔だとか、
どんな顔でその男と話すのだろう、だとか。
まあどうでもいい下らない事ばかりだ。

「なぁ、面食いじゃねぇだろ、あんた」
「何?どういう意味それ」
「好きになるヤツとかよ、どんなだよ」
「どんなって・・・普通よフツー」
「普通だぁ?」

だから俺になびかねぇのか、
だなんて思いは流石に浮かばなかった。
その双眸の幻めきて。

何故更新が阿含なのかは日記にて。
まあ、書いてて楽しいんですけどね。彼は。