目が合ったような気がするのは、

確かにそうだったからだ。
あれは気のせいではないだろう。
浮いた噂が幾つもある男だしひとつも不思議ではないのだ。
だからブリッツの試合の最中に
ジェクトがこちらに視線を送ったとしてもおかしくはない。
不自然な箇所は一つもないではないか。


唐突に降ってきた(らしい)あの男―ジェクトという男は
不思議とブリッツの腕がプロ級であり少しだけ話題の中心になった。
どうも話を聞く分にはガードらしい。
そんな男が何故ブリッツをしているのだろうとも思ったが
こんな時代だしこんな世界だ。少しは息抜きも必要だろうと思う。
それにしても先ほどはやけにしっかり視線がかち合ったものだ。
余りにかち合いすぎて は僅か赤面し視線を逸らした。
そんな の態度に気づいたのかそうでないのか、
それでもジェクトはそのまま華麗にシュートを決め場内の声援を一身に受けていた。







「あぁ、あんたの連れだったのね」

「何だ?知り合いかアーロン」

「お前こそどうして知っているんだ」

「ちょーっとな」


意味深に笑うジェクトを見ないよう はアーロンを見る。
ブリッツの会場を出ようとした瞬間やけに大きな男にぶつかり
それがアーロンだと知った。
アーロンはアーロンで と出会った事に驚いていたし も驚いた。
互いに場違いな人間だからだ。


昔、まだアーロンが寺院に入る前の話。その頃知り合った。
特に他意はなく、それでも少々道を外れかけていた
あの小さな村で浮いた存在であり彼女自身も早くこんな村を捨ててやると考え、
そうしてそのままガードになった。
その過程を知らないはずのアーロンは何故だか知っており
(ガードになったからといって は未だに誰にもついていない有様だ。
何故ならば血の気が多過ぎる為主となる召喚師からは首にされるし、
例えば 自身が見切りをつける場合もあった)
はその間よく色んな人達から怒られたりしていたのだ。
やる気があるのか、そんな事でどうするんだ。
その都度うるせぇと息巻いた は居場所を探した。
そんなものはないと知りつつもだ。
果てのない、あてのない旅だとも言える。


「見つかったのか、お前」
「何?何が?」
「・・・お前は、まったく」
「それにしても、あんたがガードねぇ」


ジェクトは見ている。この感覚は勘違いでないだろう。
この先どうするかだ。アーロンはこの辺、特に疎い為気づかないだろう。
問題はブラスカだ。
ふと一人離れた場所でこちらの様子を伺っているブラスカに視線を向ける。
ブラスカの周囲には召喚師を崇め敬う人々が集っていた。
誰もが彼に希望を託し日々の恐れを忘れる。彼の命もだ。 ブラスカがこちらを見た。
笑っている。気づいているのだろう。侮れない男だ。


「―で、 ちゃんよ」
「何?」
「メシでも喰わねぇか、俺と二人で」


これは流石のアーロンも気づいた事だろう。
しかしそれより先にジェクトの腕が を掴んでいた。
だからアーロンの小言も、ブラスカの視線も何も気にする間はなかった。







だから分かっていたのだ。あの腕を拒否しなかった時点で。
このまま転がり落ちても構いはしないと思ってしまったのだ。
試合で大活躍をみせたジェクトは街中でも顔が知れており
様々な人々が声をかけてくる。
その一人一人にリアクションを取るあたり、慣れているのだろうか。


ジェクトは の腕を掴んだまま歩き続ける。
目的地は飯屋かと思わない、流石にだ。
そうして案の定ジェクトは宿に入りそのまま部屋で食事する流れとなった。
余りに性急で余りに正直すぎる選択。尚且つ恐れを知らない。


「・・・あんた、毎度こうなの?」
「うん?何がだ?」
「会ってすぐヤるっての」
「何だ?俺とヤりてぇのか ちゃん」
「いや、そうじゃなくて」
「もう少し慎みってのを持った方が男受けするぜ」


ジェクトはベッドに座り込んだまま届けさせたサンドウィッチをほお張っている。
やはりあれだけの運動をしたのだ、腹も減っているのだろう。
そうして はそんなジェクトの隣で寝転んでいる。
もうここまで来た以上腹を括るしかない。
見っとも無く騒ぎ立てるのも嫌だったし興味もあった。
いつも興味は我が身を滅ぼすと知っていながら。


「試合中、見てたでしょ」
「うん?」
「気のせいかな」
「・・・さぁなぁ」
「何それ」
「可愛い事言うじゃねぇの」


ようやく二皿間食したジェクトは指先を舐めながらそう呟く。
まだこの男が何を目的としているのかは分からない。
それでも一つだけ分かった事がある。
それはこの男の口から放たれる、


世にも濃厚な唇の調べ

何というか、ブラスカ御一行とか久々すぎだろ。
他、どっか書いてるとことかあるのかと。