まあ毎度の事らしく、

今更騒ぎ立てる事ではないのだが
新しく停泊した港町で又してもゾロが迷子になった、只それだけの話。
それだけの話から物語りは展開する。

ゾロ自身迷子になったとはどうやらまだ認めていないらしく
辺りをきょろきょろと見渡すが余り意味はない。
最初は活気ある屋台が乱立した大通りにいたはずなのに
いつしか辺りは灰色の壁に囲まれ大よそ風紀上宜しくないような
ネオン達が自己主張を始めている。
もうそろそろ夜も盛り上がりだす時間帯だ。
酒でも喰らうかと思い店を捜そうとした。その時だ。

「・・・おい」

胸の財布を掏られた瞬間掴んだ手首、そうして振り返る女。

「ゾロ?」
か、お前」
「やっぱりねー」
「まず財布を返せ」

夜の街に完全に同化した に出会ったのは
まだルフィにさえ出会う前の出来事だ。
まだまだ走り出しだったゾロの財布をやはり掏りかけた を追いかけた。
腕はよかったらしく今まで直にばれた事がなかったらしい
憮然と追いかけて来るゾロに恐怖を感じ力の限り逃げ回った。
最終的に財布の返却と食事を請求された。

「あんただって分かったからさぁ」
「普通に声かけろ」
「何やってんの?こんなトコで」

迷子だ、なんて言えるわけもなく少々口ごもれば
あんた迷子なの、 はそう言い全然変わってないと笑った。

「お前は何やってんだよ」
「うーん」
「大して変わってねぇんだろ」
「一言で言うなら、逃げてる、かな」
「は?何から」
「悪いやつ」

ここが旨いと が指差した居酒屋に入る。
ゾロも も総じて泥臭い料理と下品な酒が好きだ。
店の中は怒号と煙が充満していた。
店内の明かりに照らされ久方ぶりに
の顔をまじまじと見たゾロは薄い傷に気づく。
左の目じりから唇の端に向かいついた薄い傷だ。
女の顔には相応しくないと思った。

「やっぱ目立つ?」
「・・・おう」
「最悪だから」
「どんな悪さしたんだよ、お前」
「あたし基本的にトレジャーハンターじゃない?」
「盗人な」

ナミの進化型のようなものだ。
は生まれも育ちも盗人、生粋の盗人。
既になくなった両親も名のある盗人であり
自身も盗人で海賊の財宝や各所に埋蔵されたお宝等を奪う事を糧としている。
まあ何でも盗む。人の財布も。

「ちょっとね、相手が悪かったらしくて」
「逃げ回ってんのか」
「しかもあたし捕ってないのに逃げ回るっておかしくない?」
「追われてんのか」
「挙句の果てに海賊でもないってのに懸賞金までかかってさぁ」
「ほぅ、大した出世じゃねぇか」
「何笑ってんのよ」

恐らくどこに行ってもどんな場合でも は生きていけるのだ。
こんな調子で。

「で、あんたは今何してんのよゾロ」

偶然に遭遇し又別れる。
もし縁があれば何れ出会うだろう。
安い酒を煽りながら昔話なんかに花を咲かせている時間が緩やかに流れる。
共にこの世界で生きる、
幾世久しく永らへど。

ひっさびさにゾロを書いたわけなんですけどね。
普通に話してるという按配に!
因みに、『悪い奴』は鳥で。