一生涯夢を見ているようなものだと誰かが言い、

夢を見ながら死んでいくのだと誰かが言った。
酒に酔わされながらそんな話を何となく聞いていた
軽い眩暈を覚えながらこんな人生は余りにも詰まらないと笑った。
一人で。

夢破れた者に残された道は数少ないわけだ。
海から逃げ出した に戻る道はなくそれでも身体は海を求め飢え乾く。
それでも気づかない振りをしていた。
気づかない振りを続ける為には現実から逃避するしかなく
こうやって酒に溺れるのだ。

ふと気づけば毎度の如く酒を飲んでいた客達は既に姿を消しており
テーブルに突っ伏した だけが取り残されていた。
完全に常連と化した の肩には毛布がかけられており
寡黙なマスターの優しさを感じる瞬間だ。
だるい身体に嫌気を感じながら身を起こせばカウンターに人が居た。

「起きたか」
「あんた・・・」
「何て生活してやがる」

氷がグラスにあたり、
しかもその音がやけに響いたものだから は溜息を吐く。
目覚めと共に何となくタバコを吸いたくなり探した。
カウンターに座りこちらに背を向けているあの男の視線を捕らえたくなかった為だ。

「仕事は」
「・・・何か用なの、あんた」
「いや、別に」

あの頃、確かに は素晴らしい女だった。
海を自由に駆け巡り己が欲望を剥き出しのまま生きていた。
そんな女の翼を折ったのは自分だ。二度と自由に飛べないように。
自由を、そうして翼を失った彼女の墜ち様は
思い描いていたものより明らかに凄惨なものであり今に至る。
光は完全に失われた。

「スモーカー」

あたしを殺してと呟いた は既に死人も同然であり
スモーカーは息を飲む。
背を向けたままスコッチを無理に流し込めば
の隠された狂気が狭い店内に増幅した。
ひかりも淡きゆめに別るる。

何も落ちぶれた主人公も書かずとも。
ひとりじめしたかったスモーカーの悪い遊び。