言葉も分からない異国に一人だ。

まぁ流石に慣れてはきている。
石畳がデフォだったり、当然だけれど主食が米ではなかったりだ。
日本を離れ、それでも大差はないと思える。
日々がサッカー一色に染まりきっただけの話なのだ。


そういえばここ最近、全身がやけに痛い。
遅い成長期に身体が侵されている事を知った。
堪えようのない喜び、そうしてこうなるはずだった、そういった感触。
故郷を捨て心底よかったと思えた。


「あぁー」


起き上がり一気に背伸びをする。
首を鳴らしぼんやりと窓から外を見つめた。
時間的にもうそろそろなのだ。あれが始まってからでいいだろう、動き出すのは。
そういえば牛乳が切れていたなぁ、なんて事を思い出す。
練習後、今日は買出しをしよう。


「あったま痛ったぁーい・・・」
「!?」
「おはよー」
「何で・・・!?」
「あぁ、鍵?剣ちゃんが持ってたけど」


大体いつものパターンでは、
階下に住んでいる伊武兄妹が今の時間帯から騒ぎ始め、その騒音で末次は目覚める。
どれだけ眠りが深くてもだ。その通常パターンが今日に限り崩された。
当然のようにが部屋に入って来たからだ。


「ねぇ水ないの?水」
「・・・」
「あっち?頭痛いわぁ」


どうやらは朝帰りのご様子だ。
仕切りに頭が痛いと呟いているからには深酒でもしたのだろう。
どこにいようが生活のリズムが一切崩れない女。
否、元々彼女の生活は崩れきっている。
がキッチンに向かっている間にジャージでも羽織ろうと思い立ち上がった。
やっぱり、随分身体が逞しくなっているようで、今着ているTシャツさえきつくなっていた。


「あんたさぁ、やけにでかくなったんじゃない?」
「・・・見てんじゃねぇよ」
「何恥ずかしがってんのよ」


そんなもんいっつも見てるわよ。
が言うそんなものとは恐らく伊武の事だ。
妙な兄妹だとは常々思っていたけれども、この二人の関係の真意は何なのか。
そんな、詰まらない事を考える。


「今日練習終わったらさぁ、何か買いに行く?」
「あぁ?」
「通訳、したげるわよ」


あんたまだ上手く喋れないでしょう。
にやにやと笑う。


「あぁー」
「おい、今日の練習が―」


じゃあ行く。
そう言いかけた途端だ。
が開けたドアが再度開き既に準備を整えた伊武が
(恐らくスケジュールが変更になったのだ)入って来た。三竦みの状態に陥る。


「おはよー」
、手前・・・何してやがる」
「あぁーめんどくせぇ」


毎朝繰り返される騒動が今日は末次の部屋で始まった。
伊武は伊武で、お前がどうしてこんな所にいるんだ。
そもそも昨晩はどこで何をしてやがった。
そう問いただしているし、で関係ないでしょう、そう言い張る。
恐らく伊武にしてもを束縛―
言い方に御幣があるかも知れないがそう言う言い方になるだろう。
どうやら伊武はの親代わりらしいから、父親が娘の素行を注意するような感じだ。
まあ、傍から見ていて気持ち悪い事には変わりない。
二人が言い合っている間に準備をすませた。














結局、練習後にと買い物に行く事になった末次は
呆れた様子で彼女を見ている。
住んでいるアパートメントの近隣とはいえ、
すれ違う人、そうして店の人間に知り合いが多すぎるのだ。
ニコニコと笑いながら挨拶をしているを見ている。
人見知りせず、人から好かれ、この国のお家柄だけではないだろう、好かれる。
伊武とは余り似ていないが(容姿は、だ。性質は似ていると思う)
連れて歩くには十分すぎる器量、スタイル。
こんな女を好きになってはいけないというモデルだ。
そんな事は分かっている。


「どういうのがいいの?」
「何でもいいよ」
「えぇー?けどあんたまだでっかくなるんでしょ?」
「知らねぇ」
「なるって」


何かを求めるわけにはいかない。
それに、今この状態も随分楽しいではないか、そう思える。思ってしまった。


「伊武サン、機嫌悪かったぜ」
「知らないわよ、そんなの。ほっときゃいいのよ」
「あんたなぁ・・・」


の手が末次の右腕、それの裾を掴む。
そのままグイと引っ張られ近くのショップに連れ込まれた。
その瞬間にもだ。この気持ちは、
しずかにあつく咲きこぼる

末次です。というかお前、リクどれだけ待たせるんだと。
しかもこのサイト共通、俺フィーシリーズの
伊武兄妹という。伊武を剣ちゃんと呼ぶ女・・・!
これはまだリザーブドックス結成前の予定です。