私有を教えたのはきみ



  教室にて彼女と別れてってうるさいから悪いんだけど 、毎度ながらお願いしていい?と悪びれる事なく言ってくる五条を見ながら、このクソみたいなやり取りは何度目だろう、なんて事を考えていた。


あらら、という目でこちらを見ている硝子と夏油の視線は五条が私の席の向かいの椅子に座った時から感じていたのだけれど、そんな目で見ないでよ、私がバカだって事は重々承知なんですけど。


五条と付き合い始めて一年半。この一年半の間ずっとこうだ。初めての浮気発覚時は泣いた。まさか付き合って半月でそんな目に遭うだなんて当然こちらは思ってもいなくて、余りのショックに泣き崩れた。五条は何故かごめんね、とすぐに謝りその半月後又別の女と浮気をした。


付き合って半年くらいは五条に捨てられるのではないかと不安で仕方がなかったが、こちらから別れると言わない限りこの関係は続くらしいと気づいた。それからはもう惰性だ。怒る事もなく、悲しむ事も忘れこうして五条のアホなお願いを聞く。この男が何を考えているのかは未だに何一つわからない。


じゃーよろしくーと手を振り出て行った五条を見送り、こちらを哀れみの眼差しで見てくる2人に中指を立てた。



「あんた、あれでいーの?あいつ顔がいいだけのバカだぜ?」
「知ってる」
「よくはないだろ」
「ご丁寧にどーも」



この2人は最初から何もかもを知っている。五条の浮気癖も、その都度私が泣いて泣いて気が狂いそうになっていた事も、最早今では涙も出ない事も何もかもを知っている。



「あ」
「ハイキター、地獄の黙示録」



『放課後、高専最寄りのジョナサンで』



五条からメールが入る。クソみたいな三者面談の始まりだ。










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何も知らなかったんですと泣く浮気女と、へらへらしている五条を前にドリンクバーのグラスばかりが増えて行く。何も知らなかったと言いながらこうして私と面と向かうこの女の気持ちが少しも理解できない。


そうだね、それはかわいそうだったね。じゃあどうぞ、その男あげるよ。そんな展開を期待しているのか?でも残念、その男がこんな馬鹿な三者面談を組んだの。私に後始末をさせるために!


はぁ、と大きなため息を吐きながら口を開く。



「あんたが知らなかったっていうのも嘘だし、この男はあんた以外にも浮気相手が山ほどいるし、今だってなんとも思っちゃいないのよ。幾ら泣いたってこの男の心はには少しも届かないし同情心さえくすぐれないの。だって心がないから」



五条が笑う。ほら、その子すっごい目であんたの事見てるけど。氷の半分溶けた味のしないカルピスを飲みながらまるで他人事のように眺める。


いつもこの調子で、こちらが手放せないと思っている五条は浮気を繰り返す。私の事が嫌いだったらすっぱり振ってくれればいいのに(いや、それはそれで死ぬほどつらいんだけど)別に全然お前の事は好きなんだけど、だなんて平然と言う。


「いや、だって君、俺に彼女がいる事は知ってたでしょ、何で今更泣くの?」
「それは…!」



目の前で五条と浮気相手の口論が始まった。まあ大体こういう流れで流石にこの男のクソさに気づいた浮気相手が逆切れして終わるのが毎度のパターンなんだけれど、何故だか急にこれまでの事が走馬灯のように流れ出す。


付き合って半月で浮気された事、死ぬ程ショックでずっと泣いていた事。硝子が呆れながら慰めてくれた事(だって悟バカじゃん!?こうなるってあんたも分かってたよね?!分かってたって言ってよ!そこまで盲目になる事ある!?)


そんな私を見て「何でお前泣いてんの?」と言ってきた五条のあの顔。 驚きすぎて「浮気してんじゃん!!」と言えば、「でも彼女はお前じゃん?」とまったく悪びれなかった男の顔。


五条のあの顔。兎にも角にも顔がいい。驚く程顔が良い。顔が良いので許してしまったバカな女。それが私。 と言う名のバカな女。


その後も当然ながら五条の素行は改善する事など無かった。五条は頻繁に連絡が取れなくなる。そんな時は決まって『傑と一緒にいる』とだけメールが入ってくる。それに彼の携帯は頻繁に何事かを受信している。あの頃から今だってずっとそうだ。こうして五条の浮気の後始末をするのは何度目だろう。



「彼女いるって言ってんのにしつけーんだよ」



私にはそう言うけれど、いざ対面した時の浮気相手たちはどこか誇らしげで、まるで私から五条を奪ったとでも言いたげで、そんな顔を見ているとこちらも意地になる。当の五条はそんな私たちを見ていて、ていうかあんたどんな気持ちで私たちを見てるの。



「あ~~もう、いいわ」



自分の口から出たと思えないほど他人事のように発した。もういいわ、めんどくさ。付き合ってらんない。嘘泣きの女と驚いている五条を置いてジョナサンを出る。会計分より明らかに多い1000円を机に叩きつけて。


そいつ、あげる。もういらない。なんだか全てがどうでもよくなってしまった。


五条の事を考えるだけで息は苦しくなるし嫉妬心はとっくにこの身を喰らい尽くした。何を思っても不安でしかなくて毎日目が覚める度に苦しい。その苦しみから逃れる唯一の救いが五条だなんて愚の骨頂だ。諸悪の根源が五条なのだと認めきれないでいた。


さっさと別れなよ。あいつバカだから調子に乗るだけだよ。散々聞かされた。あいつ調子に乗りまくってんじゃん、あんたそれでいいの?いいわけないじゃん。凄い嫌だったよずっと。



!」
「…」
「待てって、シカトしてんじゃねー」



五条は追って来た。驚きの展開だ。足を止めず無視をする。それなのに五条の手が肩を掴んで来た。最悪。最悪。泣いている顔を見られたくない。



「何なの、あれ」
「何が」
「さっきの」



もういいって何。



「もういいって事」
「何が」
「全部」



ああ、嫌だな。泣き顔を五条に見られてる事も、こいつの事で泣いてるのも全部嫌だ。



「え?何?本気で別れたいって言ってんの?」
「そうだよ!」



この期に及んで何?今わかったの?何なのこいつ。



「だってすげー泣いてんじゃん、それ俺と別れんのが嫌で泣いてんじゃねーの?」
「!!!」



死ぬほど驚いたと言わんばかりの五条の顔が頭から離れない。ここまで揉めたのにそんな事言うなんてコイツ本当にどういうつもりなの?


カッとした序でに右手が動いていて、五条の鳩尾にかなりいい一撃をお見舞いする。この男は完全に私を舐めていた。そうでなければ絶対に喰らわないはずだ。我ながら鳩尾を射貫くいい一撃だった。


そうして。この日、私は五条悟と正式に別れた。










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「―――――で、悟の顔を見るに別れたって事?」
「そう」
「悟、大丈夫かそれ」
「クソ痛ぇーんだけど」



最後の挨拶は 渾身の一撃で、まさかそんな真似をされると思っていない五条はモロにそれを喰らった。喰らった瞬間のあの驚いた顔!(その後すぐに咽ていたが)あれだけさめざめと悲しんだり癒えない怒りはどこぞへと消え今となってはせいせいしている。


目下の問題は同じ寮に暮らし同じクラスだという事なのだけれど(それが別れに中々踏み出せない理由でもあったのだけれど)何か意外と平気で、



「よかったじゃん、別れて」
「はぁ!?」
「いやもう絶対よかったでしょ、酷かったもん悟。見てらんなかったよ正直」
「硝子テメー!」
もなんか奴隷みたいでさ、まともな付き合いじゃねーってあれ。ねぇ、傑」
「確かに」



この2人には死ぬほど迷惑をかけた。
「ていうか別に別れてねーから」
「うわ、怖」
「俺は納得してねーからな、
「しつこいと嫌われるぞ、悟」
「俺が!こいつに!?ありえねー!」



傍から見ずともこれは舐められすぎで、だけれどもう悟には反応しない事にしている。下手に口を開くと上手く丸め込まれそうで怖いのだ。だから、私が選べる手段はシカトしかない。



「聞いてんのかよ」
「お客さーん、お触りは禁止となってまーす」
「出たね、硝子鉄壁のガード」
「お前らうぜーって!」



五条と別れて初めてゆっくり眠る事が出来た。胸の支えも不要な心配も全てない。夜中にハッと目覚め携帯の着信を見て落胆する事もない。五条がいないだけでこうも楽になるものなのか。


暫くシカトを貫いていると五条は声をかけて来なくなった。この調子で半年も経てば元の関係に戻れるだろうか。別れても相変わらず彼の携帯は頻繁に鳴っていたし女遊びも健在のようだった。










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別れた後、[FN:名前] はどんどんとキレイになった。元々可愛くはあったのだが、五条から齎されるストレスにより疲弊しきった彼女はやつれ切り、元は柔らかさのあった表情も剣のある顔つきに変容してしまっていた。生き生きとし、みるみるうちに元来の輝きを取り戻したと言う方が妥当なのだろう。


それにベタだが、別れた翌日にばっさりと髪を切りイメチェンも試みた。これまで長かった髪を切りボブくらいの長さにしたのだ。最近流行ってるし切りっぱなしボブ可愛いよね、ニコニコと笑いながら新しい髪型を披露する を五条はじっと見ているが声はかけない。



「最近ほんっと可愛くなったねあんた」
「マジモテるからねヤバい。きたよモテ期」
「むしろ悟がヤバいっしょ、あいつどんだけあんたの精気吸い取ってたの、呪霊かよあいつ」
「ストレスエグかったからねマジで」
「だって!」
「うるせーブス」
「でも、確かにキレイになったとは思ってるんだろ悟も」
「は!?」
「事実だろ」
「…」
「私が誘おうかな」



夏油がそう言えば、五条は目線だけジロリと寄越した。それを見て笑う。あ、ダメな感じだ?そう言えば、別に、と呟き窓の外を見た。









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モテ期が到来した は割と遊んでいた。流石に特定の彼氏を作る気にはなれないが、これまで押さえつけられていた分の反動がすごい。五条の事が気がかりで遊びにも行けず(五条は散々遊びに行っていたというのに)連絡が来たらすぐ会えるようにと友達とも遊ばないでいたこの数年の自分が馬鹿馬鹿しい。


そういう事で今週末も合コンに向かう。前回の合コンで会った人とやりとりをしていて、そこからの第二弾。地元の友達から是非と請われての開催だ。こういう時、地元が23区内だとアドバンテージでかいよね。指定された店に向かい相手を待つ。


今日はいよいよ距離を詰めてくるかな、だとか、他にどんな人が来るのかな、だとか。ガールズトークに花を咲かせていれば男性陣の声は聞こえてきた。個室の入り口を見る。



「よお」
「!?」



よお、と顔を出したのは五条だった。目が点になるし女性陣はざわついている。振り向かずとも分かる。大方、めっちゃイケメン!だとか言っているんだろう。確かにそうだ。顔だけは文句なしにイケメンだ。その後ろから幹事の男が顔を出した。



「な、なんで?知り合いだった?」
「たまたま1人欠員しててさ、すぐそこで会ったんだけどめっちゃノリよくて採用!」
「…!!!」



そこからはもう単純に五条の無双だ。初対面にも関わらず男性陣の主導権を握りやりたい放題の五条ワールド。これまた顔が良いから割ときわどい事を言ってもやっても許される空気が凄い。というかこの男、付き合っている間もこうして散々遊んでいたんだろうと思わざるを得ない手練れ振りだ。ここで答え合わせなんてしたくなかったんだけど。


飲んでもまったく酔えないし、そもそも五条はノンアルだ。だからこの男は別段酔いもせずにこのノリを続けているのだ。どうにか気を取り直そうと幹事の隣に座り話をするが、そもそもこの男が五条の無双振りをバカみたいに気に入っており(イケメンというのは性差なく好かれる傾向にある)こちらが話しかけても上の空なわけで話にならない。


五条も五条で が話しかけるタイミングを見て仕掛けて来る。最悪だ。五条がこの合コンに顔を出したのか真意を量りかねていたのだがこれで確定だ。この男は完全にこちらの邪魔をするためにここへ来た。度々視線が合うのも納得だ。五条は の反応を見ている。


全然味のしない薄まったライチハイで唇を濡らしながらこの場をどう乗り切るべきが考えるがまったく浮かばない。とりあえず携帯を弄り場をやり過ごそうと思うも場の盛り上がりがそれを阻止した。


携帯からふ、と視線を上げた の目前で五条がキスをしていた。相手は の友達が連れて来た女で今日初めて会った。いや、いい。100歩譲ってその女はいい。多少尻が軽かろうが酒を飲んで浮かれた合コンでノリでやった事だ。別にいい。


問題はキスをしている五条であり、あの男は を見ながら、 と目が合いながらキスをした。 別にこの男が元カレだからだとか、五条がどうだとかそんな事はどうでもいい(はずなのだけれど)その行為に心底腹が立ち合コンどころではなくなった。


丁度飲み放題の時間も切れる頃合いだ。店を出た所で幹事の男から二軒目の誘いを受けるも断り帰宅した。ていうか、マジで今更じゃない!?



「あんたなんでそんなキレてんの」
「キレてないけど!!」
「いや、ブチギレでしょ」
「悟が…」



寮に戻りたまたま顔を合わせた硝子が話しかけて来た。そのまま廊下で話していればだ。五条が帰って来た。あの男も二次会には行かなかった様だ。急に黙った を見て硝子は何事か悟ったらしい。というよりも、今にも飛びかかりそうな眼差しで五条を睨んでいる を見て察さざるを得なかった。



「あんたね」
「つまんねー男」
「は!?」
「絶対俺のがいいっしょ」



五条はそう言い自室へ戻る。 がどんな表情をしているのかはこちらから見えないが、ぎゅっと拳を握っているところを見るに怒り心頭という所か。あーあ、これは大変ですよ、と思いながら硝子も部屋へ戻ろうした。タイミング悪く夏油がこちらへ歩いて来る。



「ん?どした?」
「波乱の幕開け」
「あー」



自室のドアを勢いよく閉める を見て夏油が苦笑いする。硝子の言う通り、この日から波乱の幕開けとなった。










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それから五条は の行く先全てに顔を出すと言う奇跡のウザ絡みを連発した。しかもご丁寧に『元カレの五条悟です』という説明までする。当然ながら のモテ期は崩壊した。完全に五条のせいだった。やはりあの顔で『元カレ』という称号がデカい。男達が引くのだ。



「ねえ!!あいつ何なの!?!?」
「あんたの元カレ」
「同級生」
「本当頭おかしいんじゃないの!?」
「そんなの知ってるじゃん」
「悟は元からあんなだぞ」



『元カレ』に付き纏われている は毎日のように教室で発狂するに至り、傍目から見ても以前のように、否、それ以上にストレスはMAX状態に陥っていた。



「嫌がらせがすごいんだけどマジで!!!」
「我慢比べは分が悪いよねぇ」
「相手はあの五条悟だからな」



うんうん、と話に付き合う硝子と夏油だが、当然ながら完全に他人事だ。まあ、故に冷静に状況を判断してくれてもいる。



「白旗あげれば?」
「絶対嫌!!!」
「この程度で根を上げられてもねー」
「悟!?」
「まだまだこれからでしょ」



五条が の前の席に座る。



「あんた何のつもりなの!?」
「別に」
「こんな嫌がらせして楽しい!?」



机に寝そべった五条はじっと を見上げた。何を考えているのか相変わらずまったく分からない水色の眼がこちらを捉えた。



「楽しいねー、マジで超楽しい」
「…!!!」



元々 の煽り耐性は0に近い。死ね!と叫び勢いよく教室を出ていく を眺めながら「完全に負け戦じゃん」と硝子が言う。



「余り虐めてやるなよ、悟」
「傑」
「?」
「明日の任務変われよ」
「!!」
「全然俺でもいいっしょ、あれ」
「いや、ダメだ」
「てかそもそも俺だったろ」



突如言い合いに発展した夏油と五条を見ながら、ようやくピンと来たらしい硝子が口を挟んだ。



「あー、それ と同時任務ってやつか」
「変われって」
「ダメダメ」
「はぁー!?お前あの人妻どうした!?」
「ちょ」
「霞ヶ関のバリキャリ女は!?」
「悟、よせ」
「国際線のスッチーは!?」
「ラインナップが完全にAVのそれ」



突如夏油の女性関係を暴露し出した五条はまだまだこれからといった様子で夏油を挑発するが、賢明な彼はそれに乗らずグッと我慢し落ち着けと声をかけた。平然とした顔をしているがこの男、人知れぬところでとんでもない真似をしている。



「ダメなものはダメだ、悟。後、私の個人情報を漏洩するんじゃない」
「ダメだこいつら」
「…」
「お前、全然納得してないな」
「別っつに」
「コイツ絶対納得してねーって」
「絶対にダメだからな、悟」



夏油の予想は当たり前のように的中しており、翌日呆然とした顔で教室に顔を出す事になった。予想はしていたがまさかそんな馬鹿な真似をするわけがないと、甘い考えに囚われていた。五条悟を侮ってはいけない。


自室に置いておいたチケットと書類一式はきれいさっぱりと消え去っていた。証拠はないが犯人は一人しか思い当たらない。すぐに携帯に電話をかけたが電源が切られていた。



「あれ?あんた泊まりじゃなかったの?」
「悟にやられた」
「え?ヤベーじゃん、



硝子が にかけるも圏外。暫しの沈黙を挟み口を開く。



「…妊娠とかすんじゃね」
「休学か…」
「前例ねぇ~」



二人が揃って頭を抱えていれば夜蛾が教室に入って来た。始業時間はもうすぐだ。彼は夏油を見て意外そうな顔をする。



「傑、お前悟と変わったらしいな。体調大丈夫か?」
「…」



熱出そうです、と夏油は呟いた。











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現場につけば五条がいた。前日までは夏油と打ち合わせをしていて当日は現場で落ち合おうと話をしていたわけで、いざ出向けばそこに五条がいたわけで死ぬほどビビった。


現場は携帯の電波も入らない山奥であり、え?私道間違えたの?と思うも当然ながらそんな事はない。そりゃそうだ。地図だって持っているわけで間違う道理がない。五条は何食わぬ顔で傑と変わったから、と言った。電話をかけて確かめたいところだが携帯は使う事が出来ない。


所謂秘湯の温泉が今回の現場だ。祀られていた祠が地震で崩壊し土着の神がまろびてでしまった。元々この一帯で荒ぶっていた神が封印された祠だったらしく、長い歳月を経てもその本質は何ら変わらず今尚、荒ぶってらっしゃる。


再度の封印をする為に手配されたのが だ。フィジカルと呪力こそそこそこの出来栄えだが、こういった呪符に関しての知識と才能に関しては今のところ誰にも負ける気がしない。出来るならば一生事務仕事でやっていけたらいいなって思っています。


只、如何せんフィジカル面に問題があり(要は対象を弱らせる事が出来ないのだ)この度は夏油と一緒に任務に就く運びとなったはずだったのだが―――――



「何やってんだよ、さっさと行くぞバカ」



五条はズンズン先に進む。 がそこにいる事さえ忘れているのかと思う程だ。そこから先はお察しの通り五条の独壇場であり、お前マジで邪魔、何の役にも立たねー、一人で何が出来んの?これまでどうやって生きて来たの?等散々な言われようながら夕方には全て恙なく終わった。正直な所、最後の封印だけやったようなものでお膳立ては全て五条が行った。


まるで手応えのない任務も終わりバス停に向かおうとするも、五条は反対方向へ歩いて行く。ちょっと、逆、逆!そう言えばバスねーだろ、そう返された。携帯は、そうだ。圏外。



「お前何で事前にちゃんと調べてないの?バカなの?死にたいの?」
「だって、傑が…」
「あいつが嘘吐いてたらどーすんの?マジでバカありえねー」



五条は終始文句を吐きながら先へ進み、それから20分程経過したはずだ。到着したのは今回の依頼主である老舗の旅館だった。こんな山の中にこうも立派な建築物があるのかとギョッとしている を横目に五条は、お待ちしておりました、と首を垂れる女将に挨拶をしている。


この旅館は古くから神の湯として知る人ぞ知る秘湯であり五条家も馴染みの場所だ。



「悟坊ちゃん、こちらへ」
「腹減ったんだけど」
「すぐにご用意致しますので」
「あれ、俺の連れ」
「お嬢様もこちらへ」



これが御三家の力か…と呆気に取られる。というよりもこんな待遇を受けさも当然のように振る舞える五条に畏怖さえ覚えた。坊ちゃんって呼ばれてるんだ悟…。まあ確かにこの人、五条家の跡取りだからお坊ちゃんではあるんだよね。だからこんなにも身勝手で我儘なのかな。通されたのは松の部屋で、窓一面に広大な山稜が望める。



「お先に温泉はいかがですか?お疲れでしょう?」
「いーね」
「え?え?」
「どーすんのお前」
「え?」
「ここ混浴だっけ?」
「内風呂の露天でしたら…」
「いえ結構です!!!!」



逃げるように女湯へ向かう。駄目だ。あのままでは五条のペースに完全に飲まれてしまう。他に客はいないようで脱衣所も温泉も独り占め状態だった。挙句温泉は滅茶苦茶良い。


湯に浸かりながら今日一日の反省をする。完全に五条のペースだ。これは確実にヤバい。そもそも何で五条と温泉に来ているのだろう。ぶくぶくと湯船に沈む。それにしたって何これ?何これ?何これ???疲れめっちゃ取れるなこの温泉…流石神の湯。


疲れもすっかり取れ、湯上りに浴衣姿で部屋に戻ると、浴衣姿の五条がいた。どうやら次々と料理が運ばれいるようだ。え?なにこれ?旅行??付き合ってる時なんか一度もなかったのに???え?死んで???



「あのさ」
「あのさ」



あのさ、が被り黙る。



「いー加減、機嫌治ったの」
「…は?」



五条はこちらを見ない。



「マジでお前も頑固じゃね」



こいつ、私が怒ってると思ってる???いや、もう別れたんですけど???言いたいけれど言えない言葉が喉元で燻っている。そのまま固まる を五条がようやく見た。凄くイラついた顔をしている。



「何だよ」
「あのさ」
「何」
「別れたよね?」
「は?」
「私、言ったじゃん。別れるって言ったよね?」
「そうだっけ?」
「…!」
「何で?」
「えっ?」
「何でそんな事言ったの」
「悟が、勝手だからじゃない…」
「それってお前もそうじゃないの」
「はぁ?」
「勝手に別れるとかって、ないわ」



ご馳走様、と手を合わせた五条と目が合った。



「お前、マジでわかってねーな」



怒っている事が直で伝わる口調だと感じた。五条が怒った姿を見たのは初めてだ。柄にもなく怖気付いた。初めて五条が怖いと思った。これまで散々な真似はされたが直に怒りをぶつけられた事はない。


五条が立ち上がり反射的に も立ち上がった。近づく五条から離れるもすぐに追いつかれ腕を掴まれる。振り払おうとするも怖くて動けない。



「何だよそれ」
「…」
「超ビビってんじゃん」
「離してよ…」
「何?俺が怖いの?」
「怖い」
「何で」
「怒ってるから」
「怒らせたのお前じゃん」
「だって」
「だってって何」
「怒らないでよ」
「怒るよ。てか怒ってるよ当たり前じゃね」
「何で?」
「お前がバカだから」
「バカなの悟でしょ」



の声は震えていて、彼女が泣いている事は容易に想像が出来た。


もうずっと振り回されて疲れたの、悟、浮気ばっかするし、もう嫌なの。辛いの。苦しいの。何でこんな酷い事ばっかするの?悟にとって私って何?


五条は泣く を見下ろしている。



「お前、もう俺の事好きじゃないの」
「好きじゃない」
「あっそ」



涙を拭う を五条はひょいと抱え上げた。驚きの余り涙が止まる。



「ちょっ、何!?」
「俺はさ、お前の事まだ全然好きなわけ」
「は!?」
「それなのにお前はグダグダグダグダつまんねー事言ってんの。ていうか今、お前何つった?」
「え?」
「俺の事好きじゃないっつったよな」
「言った、けど」
「マジでありえねー」



そう言いながら五条は襖を勢いよく開けた。布団が敷かれておりギョッとする。五条はそこに を投げた。



「いや、あの」
「お前なんか勘違いしてるからさ、分からせるわ」
「!!」
「泣いても喚いても絶対許さねーから」



そう宣言した五条は徐に へと襲いかかった。布団の上に座っていた は四つん這いで逃げようとするが、その片足を掴まれ引き摺られた。強い力だ。私はこれまで悟にこんな力で掴まれた事がない。



「やめてよ!」
「お前さ、男と2人でこんな事になったらこーなるの分かってたろ」
「ならないって、悟だからこうなってるんでしょ!」
「傑だって変わんねっつーの」



両腕で防御する の腕を取りそのまま布団に押し付けた。浴衣がはだけ半裸になる。肩を上から押さえつけられ身動きが取れない。涙目で睨んでくる半裸の を見下ろしエロいな、と思う。



「お前が謝るまでやめねーから」
「私が!?」
「覚悟しろよ



五条の唇が首筋から鎖骨まで滑り骨を軽く噛んだ。指先を絡め抑えつけられた両腕は動かす事も出来ず只この身体を拘束する。帯を噛みそのまま引っ張りながら外す五条を見ていた。彼の身体は大きいのでこちらを簡単に掌握出来る。外気に触れ僅かに鳥肌が立った。


帯を失った浴衣は左右に割れ乳房が露わになった。五条の舌がベロリと這う。目を閉じ意識を逸らす。吐息が僅か乳首に触れる以外の感触はない。五条の舌先は乳首の周りをゆっくりと這っていた。酷くむず痒い感触に唇を噛む。五条はこちらの反応を伺っている。だから声を上げるわけにはいかない。指先に力が入った。


ふ、と気配を感じ薄目を開ければすぐそこに五条の顔があり息を飲む。その刹那口づけられ舌の侵入を阻止する事も出来なかった。五条は舌で の口内を犯しがてら剥ぎ取った帯で彼女の両腕を拘束した。左手で の顎を掴み唇のすぐ側で囁く。



「まだ、俺の事嫌いなの?」



答えない の濡れた眼をじっと見つめる。あっそう、と続けた五条は を抱え膝の上に座らせた。左手は身体に巻き付き自由を奪う。右手は の唇の下から口の中へと潜り込み舌を弄んだ。ほら、ちゃんとしゃぶって。痛いの嫌でしょ。舐めて。耳側で五条が囁く。


唇から抜かれた指は唾液の線を伸ばしながら五条の足で無理矢理広げられた両足の間に向かう。どうにか閉じたいが五条の足がそれを許さない。下着の上から割れ目を上下になぞり時折爪を立てる。五条の唇は の耳朶を舐め噛みながら甘い吐息を奏でる。



「…っ」
「声、出せば」



首を振る。



「何で」



五条の指が下着の脇から入り込んだ。膣の入り口、浅い所をぐちゅぐちゅと掻きまわす。思わず声が出そうになるところを無理に殺した。足の指にぐっと力を込め耐える。



「ねえ、
「…」
「俺、言ったよね」
「…っ」
「覚悟しろって」



指が二本沈んだ。体内でグッと曲げられる。五条の指は長い。



「―――――ぁ」
はココ弱いよなー」
「あっ、あ、あ、やめ」



指が曲げられた状態でぐりぐりと動かされ壁に押し付けられる。逃げ場のない快感から逃れたく腰を動かすが何の意味も為さない。声を出さないなんて無駄な意地は当然通らず、自身の甘い声と指が膣内を弄る音が室内に響き渡り嫌になる。


数分で勝手に身体は潮を吹いた。はーい、一回目。五条が笑う。自分でもはっきり分かる程膣口がひくひくと痙攣していた。ぐったりとした身体は完全に五条に預けられているが未だ足は外されない。



「気持ちいい?」
「…」
「お前、すぐイくもんな」
「さと」



ひくひくと蠢く膣口の上、充血したクリトリスを五条の指が摘まんだ。急な刺激に の身体が大きく震える。拘束された両腕を伸ばしどうにか指を外したいのだけれど届かない。五条の指は膣から溢れる体液を掬いクリトリスに擦りつけ執拗に責める。



「これやるとすぐイくよなマジで」
「や、やめて、あっ、あっ♡♡嫌だっ♡や♡」
「嫌じゃないでしょー」
「やぁっ嫌あぁっ♡イくっ♡イくっ♡♡」
「はいザコすぎ、マジ簡単にイきすぎ」
「やめっ…♡♡♡♡♡」
「もう何回目かわかんねーって」



パンパンに膨らんだクリトリスを執拗に刺激され息が出来ない。小刻みに何度も達するこの身体はすぐに限界を迎えはしたなく体液を垂れ流す他為す術がないのだ。


自分でも呂律が回っていない事に気づいているし不明瞭な言葉を発していると知っている。脳が焼き切れそうだ。殺される。本気でそう思った。悟に殺される。



「やぁっ♡♡やらぁっ♡指ぃっ♡やめっ♡♡♡」
「何で?めっちゃイってんじゃん」
「頭ぁっ♡おかしくっ♡♡な、るぅ♡」
「なっちゃえよ」
「やぁっ♡♡あっ♡あ♡♡イくっ♡」



ぎゅっと力の入る膣内から熱い飛沫が漏れた。もうイき過ぎて息が出来ない。酸欠状態だ。きっとこのままでは死んでしまう。悟に殺される。絶対に殺される。


もう僅かに触れられるだけですぐに反応してしまうくらい敏感になった身体は何ものも耐える事が出来ない。五条が を背後から押し倒した。熱く滾った性器が太腿に触れた。



「…まだ、俺の事嫌いなの」
「ぁ…」
「どうなの」



五条の性器がすっかり柔らかくなった膣口をなぞる様に上下する。



「言えない?」



頷く。



「バカだね」



本当バカ。五条はそう笑い一気に奥まで挿入した。 の背がのけ反る。そのまま激しく腰を動かせば膣内がぎゅうぎゅうに締まり が喘ぎ声を増した。背に覆い被さり耳側で囁く。



「ごめん、は?」
「やっ♡♡やぁっ♡」
「だーめ」



ゆっくりと抜き差ししながらぬらぬらと光るクリトリスを嬲る。弧を描くように優しく撫でるだけで はすぐにイった。徐々に力を強める。



「あああああ♡♡やめてええええっ♡♡♡」
「何て言うの?」
「っ♡♡♡っっ♡♡♡」
「言わないと、このまま殺しちゃうよ」
「ごめんなさいっ♡♡♡あっ♡ご♡♡めん♡な♡♡♡さ?いいいっ♡♡♡」
「俺の事好きでしょ?」
「好きっ♡好きだからっ♡♡」
「知ってる、俺も好きだよ」



はもう息も絶え絶えという有様で意識もないだろう。うわ言のように謝っている。別にいい。 が謝るんなら別に、俺は。 が俺の事を好きだって事は知ってたし。コイツが俺から離れるなんて有り得ない。そんなのは絶対に許されない。


布団に倒れ伏した の腰を掴み貪る様に叩き付ける。 の体内が小刻みに細かく震え膣内が大きくうねった。









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は見るからにボロボロの状態で高専に戻って来た。そんな とは対照的に艶々した肌の五条は終始ご機嫌で、これはもう見るからに事が起きたなと分かった。何か言いたげな硝子と夏油に一瞥だけ寄越し、寝る、とだけ呟いた は自室へ吸い込まれていった。



「悟」
「よ!傑、体調どう?」
「お前のせいで熱が出るかと思ったよ」
「より戻ったん?」
「元々別れてねーから」
「怖いって」
「あいつが俺を捨てるなんて有り得ないでしょ」



平然とそう言い退ける五条はそれを微塵も疑っていない。滅茶苦茶地雷男じゃん。硝子がそう言えば、確かに!と五条は嬉しそうに声を上げて笑った。