うつくしい(叫びたいくらい)



   いつの日からか夜が来るのが恐ろしかった。耐え難い眠気に襲われふと目覚めたが最後、それはこの身に纏わりつき離れない。最初は夢かと思っていた。 夢うつつの中、全身を舐めまわされているような不快感に気づき身を捩ろうとするもビクともしない。


ぼんやりと覚醒した眼には薄暗い天井しかうつっておらず、ここは紛れもなく自室だと気づく。夢ではない。 ここは最寄駅から徒歩15分の立地にある築5年のワンルームマンションで、私が暮らしている部屋だ。この辺りで徐々に意識は覚醒する。



「やめ」



見えない力によって無理矢理足が開かされた。ああ、又だ。又これだ。一切の抵抗が出来ないまま必ずこうなる。やめて、と発する口の中に何か蠢くものが押し込まれ声が出なくなった。


これから先の展開はいつも同じで、広げられた足の間になにものかが侵入し好き勝手にこの身を貪る。一月以上この状態が続いている。


ワンルームマンションの狭い一室でそれは無限とも思える時間行われる。大体が丑三つ時から空が白む間続く。そのせいで目覚めは最悪であり、全身は強い倦怠感が纏わり付き離れない。


朝目覚めると全身は粘液に塗れ酷い臭いだ。最初の頃は下着もパジャマも着用していたが、毎日の様に裂かれる為、最近では全裸で寝るようにしている。膣周辺は精液のような白濁液と自身の体液で汚れていた。


這うようにしてシャワーへ向かい熱い湯で全身を消毒する。幾ら汚れを落としたところで夜が来れば又、同じ事だ。これが一体何になる。睡眠不足で碌々回らない頭では如何なる答えにもたどり着けない。


こんな調子なので大学もこの一月まともに通う事が出来ないでいる。ゼミの仲間からは心配するLINEが幾つも来ているのだがまともに返答も出来ていない。体調が悪いとだけ伝えてあるからだ。まさか夜な夜な目に見えぬ何かに犯されて睡眠不足ですだなんて言えやしない。


だけれど想定よりも長すぎた。一月以上続くとは夢にも思わない。流石に睡眠不足が祟り最近では食事も喉を通らないし、一日部屋で死んだように眠っている。半月ほど前までは外に出る気力もあったのだが今となっては皆無だ。このままではいられないと判断し、一旦実家に避難する事にした。


の実家は23区内の一頭地にある住宅街の一角だ。父親が上場企業の役員であり何不自由のない暮らしをさせて貰っている。余りオカルトめいた事は好きでない為、考えないようにしていたのだが、今住んでいる部屋が悪いのかも知れない。


そんな事を思いながら実家に帰れば、また、あの女がいた。 現在の母親は目下新興宗教に夢中であり、その新興宗教の信者が度々実家を訪れていた。どうやら元々は父親の仕事と関連しており、父親はビジネス上の付き合い、母親は単純に宗教にいかれたようだ。父親の稼ぎが良い為、金蔓にでもされているのかと思ったが存外そうでもないらしい。


丁度も二月程前に嫌々ながらその教団へ顔を出した。父親が仕事でその教団へ顔を出す際にも是非一緒にと母親がどうしても聞かなかったからだ。


父親は余りいい顔をしていなかったが元々母に甘い。生まれも育ちも白金のお嬢様である母親は他人を疑うという事を知らず、その時だって明らかに嫌そうな顔をしているに向かい「親孝行だと思って」そう言った。これはもう話の通じる状態ではないと判断し大人しく付き合う事にした。一人暮らしするに辺りバイトをしなくてもやっていける程度の仕送りを貰っている手前、無下にも出来なかった。


連れて行かれたのは都心から車で二時間ほど走ったところにある教団本部と呼ばれる宗教施設だった。四方八方どこをどうみても紛うことのない宗教施設で、引率の信者に何を言われても一切頭には入って来ない。単純に私はこういうものが好きではないのだな、と思った。



「あら、あんたどうしたの!酷い顔しちゃって!」
「疲れててさ」
「お邪魔してますぅ、あらぁ本当にすごい疲れてる顔して」
「…どうも」
「何か悪いものが憑いてるんじゃないかしらねぇ」
「やめてよ」



夜中の事を思い出す。



「教祖様にお話してみる?」



また始まったよと思いながら適当に受け流した。ああなると母親は人の話を聞かなくなる。否定の言葉が飛び出せば人が変わったようになる為、曖昧に誤魔化すようにしている。どうせ高い金を払いご祈祷を頼むのだろう。


そう思ったの直感は当たり、その夜すぐに『ご祈祷』へ向かう事になった。 夕飯後、風呂に入っている時に脱衣所から急に話しかけられ最悪だなと思ったが逃げられない。髪を乾かし再度軽く化粧をし母親の運転する車に乗り込む。母親は上機嫌だった。


あのご多忙な教祖様があんたの為に時間を設けてくださったのよ、これはものすごい出来事なのよ。まるで夢のようだわ。散々とそう聞かされうんざりする。 これで何がどうなるわけでもないのだろうが、縋るような気持ちにもなっている。眠る事が恐ろしい。心身ともに限界だった。










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八王子の方にある教団の支部についたのは0時に差し掛かる頃の事だった。時間外という事もありだけが中に通される事となった。母親は同行したいと懇願していたが、今回は大きな祓いになりますので、と言われすぐに納得したようだ。


そんな事を言われ動揺したのはこちらの方で、訳の分からない宗教施設にて執り行われる祓いとやらに単身1人で挑まなければならなくなった。非常灯の灯る薄暗い通路を暫く歩きとある部屋に通される。


会議室のような部屋で拍子抜けする。テーブルと椅子があった。 またせたね、と男が入って来たのはそれから10分後の事だった。背の高い若い男だ。夏油と名乗る袈裟姿のその男はニコニコと微笑みさぁ、どうぞ。そう言った。


「…え?」
「困った事があるんでしょう、お話し下さい」
「あの」
「ここにはあなたと私しかいませんよ」
「はぁ…」


さあどうぞ、と手を差し伸べる男を前にポツリポツリと話し出す。夜中に違和感で目覚める事、何かが全身を這いずり舐めている事。確実に挿入されている感覚がある事。初対面の男に何を話しているのだろうと思いもしたが、こちらも限界を迎えつつある。夏油は片膝をつきこちらを見ている。 何も言わない夏油に対し言葉を詰まらせた。


こんな事を話して何になる。あまりにも馬鹿馬鹿しい話だ。欲求不満だとでも言うのか。急に冷静になり立ち上がる。帰ります、と言うを夏油が制した。



「勝手な真似は困るな」
「えっ?」



夏油が指を鳴らした瞬間、あの真夜中の悪寒を感じた。身体がテーブルに叩きつけられ身動きが取れない。



「それだろう、君が毎夜恐れているのは」
「そ、そうですこれ!!これです!」
「ふうん」



助けてくれ、と続けるつもりが夏油のふうん、という声にかき消された。その間にも着ている服が力任せに裂かれいつもと同じ状況になりつつある。夏油はこちらを見ている。



「やめて、どうにかしてよ!!」



全身が何者かに舐められいつもと同じだ。うぅ、と泣きそうになるが耐える。



「お前は呪霊に犯されているのさ」
「なに」
「碌々見えやしないんだろうが」



夏油が立ち上がり近づいてきた。の頭に手を乗せる。



「これで見えるかな」



その刹那飛び込んできた異形のもの。全身を這い回る無数の舌と足の間に聳り立つグロテスクな肉の塊。間髪入れず悲鳴を上げたを見て、夏油がやれやれ、とため息を吐いた。



「君は延々とこいつに犯されてるんだよ、見えなければよかったかな」



手を離す。手をつける。グイ、と両足が広げられ膣口に肉の塊が押しつけられる。肉を割って入るいつもの感触。



「嫌ぁあああ!!!」



それは慣れたやり方でこちらの身を嬲る。頭の中で処理が追いつかない。これは、何だ。私は今、何に何をされている。夏油はこちらを見下ろしている。冷たい目だ。こちらを何とも思っていない二つの眼。



「やはり似合うな」
「な、に」
「君は似合うと思っていたんだ、初めて見たあの日から」



体内で暴れる塊はより奥に入ろうと動きを強めた。奥歯を噛み締め声を殺す。



「先月、教団に来ていただろう?ご両親と共に。その時に君を見かけてね。絶対に似合うだろうと思っていたんだ。やはり私の目に狂いはなかったな。お前は嬲られる姿がよく似合う」



夏油はそう言った。



「だって、そうだろう?目に見えない何かに犯され毎晩気をやっていたんだろう?余程の好きものとしか思えない。そして今、いざ呪霊の姿を見て見ても尚、お前は涎を垂らし咥えている。ここに!」



夏油の指が体液を垂れ流す膣口に突っ込まれた。何かが蠢くそこはぎゅうぎゅうで夏油の指を必死に押し返そうとしている。



「やめ」
「お前はそういう生き物なんだよ、



違う、と首を振る。



「だって、私の前でこんなにもはしたない姿を晒すのだからね」
「いや、さわらないで!」
「お前を飼おうと思うんだ」
「やめて、やめて!!」
「一生これに犯され暮らすよりマシだろう?」



これは本能のまま貪るだけだ、お前にそれ以上の快楽はよこさないぜ。夏油の指がそそり立ったクリトリスを押し潰す。この一月の間溜まりに溜まったものをがその瞬間、溶解した。


ドロドロに蕩ける体液と共にぎゅうぎゅうに押し広げられた膣内から潮の飛沫が飛ぶ。自らの意思でなく腰が前後にビクビクと痙攣し止まらない。じきに両足は倒れ自体が動かなくなった。まだ、体内ではあれが緩々と動いている。



「やめ、やめてください、もう」



ぜえぜえと荒い息の中、は夏油に解放を乞うた。まだ身体は動かない。の顔を覗き込んだ夏油は、可哀想に、こんな目に遭って。とまるで別人のように優しい声で労った。



「そんなものに犯され、痴態を晒し可哀想に。お辛かったでしょう。目に見えない何かに日がな犯され」



呪霊はゆるゆるとまだ動いている。



「だけれど―――――」



夏油が僅かに開いたの口に指を忍ばせた。舌を掴む。



「解放は、ない」



が首を振る。涙が流れる。



「いいや、君はずっとここにいる。ここで呪霊に犯され私を楽しませる為に生きる。二度と戻れない。分かるかな。私の言っている事が」



更に呪霊の動きが激しくなり自制が効かなくなる。薄れゆく意識の中、夏油の姿だけが見えていた。










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の父親はとある大企業に勤めており、数年前からフロント企業へ出向していた。そのフロント企業は本社での出世に不可欠な出向先とされており、数年そこで雇われ社長を熟し本社へ戻る事が最も良しとされていた。


そこで何をするのか。元より売り上げなどが発生しないその企業で雇われ社長が行う事といえば人脈の整理と拡大になる。


の父親は本社で二分化している派閥の統制を図る為、政界に口利きをしてもらう事を条件とし盤星教に入信した。現社長からの口添えだった。


父親本人は極めてドライなビジネス上の付き合いとして盤星教に入信していたのだが、知らぬ間に妻がどっぷりと浸かってしまった。妻はお嬢様育ちで世間知らずだった。それとほぼ同時期に社長が事故死しビジネス上での旨味がなくなった。急ごしらえの新社長は現副社長になった。


こうなれば盤星教に入信している理由もなくなり手を引こうと考えていた。 脱退の申し出を受けた教団側は夏油に相談した。父親は教団に相当な金額を援助していた。教団側は知らなかったのだが、夏油は夏油での父親に頼み事をしていた。


脱退の意思を伝えられすぐに夏油は父親を呼び出した。やんわりと約束はどうなったのか問う。夏油は東南アジアの某国にある子会社経由で密輸をしてくれと再三依頼していた。それ自体は生きている為、空輸が難しく移動手段は海運になる。フロント企業が持っている船舶が必要だった。


他の貨物に紛れ込ませる事が出来ない理由は他にもあり、少々扱いの難しい品物の為、四六時中呪詛師に見張らせる必要がある。しかも、それなりに力のある呪詛師を、だ。お前さえ目を瞑ってくれれば事が済むのに、と夏油は言うも、父親は断り続けていた。社長の心をがっちりと掴んでいたこの若い教祖が最初から信用ならなかった。


夏油としては父親が教団から手を引く事に関しては別に構わなかった。金蔓は他に見つければいいだけの話だからだ。無知で金を持つ猿はどこにでもいる。だがしかし船舶を持ち合わせる猿はそういない。密輸だけは果たせと言うところだ。


そこで狙われたのがだった。信者たちは言われた通りに母親を唆しを教団本部へ連れて来させた。その際に呪霊を憑りつかせる。の身に起きた一連の現象はここから始まった。


夏油がに憑りつかせた呪霊は二体。本能のままに生殖を行う低級とそれを監視し夏油の視界とリンクさせる準2級。丑三つ時になると自動的に行動を開始する低級を褥より観察する。


若い猿の娘が呪霊に犯される姿など余りにも下らないギークかと思っていたが、その思いとは裏腹によからぬ気持ちが込み上げるのを感じた。まだこんなにも生臭い感情が自身の中に眠っていたのかと驚く。


定点観測で眺めるの姿は酷く扇情的で淫らだ。猿。そう、猿。畜生を飼う気持ちに似ている。心を通わせる事のない性行。こちらの情欲のみを満たす性奴隷。


日々重ねる毎に恐れ抗えず疲弊していくの姿を見て性器は屹立する。 本来であればそのまま母親を拐かしを教団へ来させ入信させるだけでよかった。家族を人質にし父親を揺さぶり事を済ませる。それだけでよかったはずなのだが欲望がまろび出た。我ながら随分と俗っぽい話だ。


そうして今、実際にの痴態を目の当たりにしやはり確信した。これを飼おう―――――










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その日以来は実家に戻る事はなかった。不審に思った父親が母親を問い詰めるも、彼女は平然とした顔で「大きな祓いが行われている」のだと答えるばかりで埒が明かない。


教団へ押しかけても返答は同じで、途中で止めると何が起こるか分かりません、責任は取れませんよと突っぱねられる。そちらの奥様がこの祓いを依頼されているんですよ、と念を押され諦める他なかった。


祓いが終わればご連絡しますので、と言われ追い返された父親は、教団施設を見上げこの教団内にはいるはずだ、と呟く。


そう。確かには依然そこにいた。あれ以来一歩たりとも教団施設から外に出てはいない。教団施設の地下五階から下は夏油しか入る事のないフロアになる。


天井の低い座敷のフロアで、窓の外には鬱蒼と竹が茂る人工的に作られた庭園が広がる。部屋の中央に小上がりがあり肘置きのついた座椅子やぼんぼりが置かれている。


夏油は窓際に置かれたレザーのチェスターフィルドソファーに腰かけている。丁度人工の滝が望める場所で日の明かりを模したLEDの灯りが燦燦と降り注ぐ場所だ。


はそんな夏油の足の間に蹲り男の性器を咥えていた。全身は未だ何ものかが這いずり回っており僅かな間でさえもこの身体は解放されない。


あの日、気を失ったが次に目覚めた時には既にここにいた。だだっ広い座敷の中に裸のが一人だ。唯一の出入り口だと考えられる障子を開ければ鉄の扉が待ち構えており絶望した。もう一つの扉はトイレでやはり窓はない。部屋の半分を占める窓に近づくも見るからに人工的な庭だ。窓は開かなかった。


混乱しながらも必死に記憶を辿る。おかしな事に記憶が余りない。ここはどこだ?確か母親に連れて来られた宗教施設のはずだ。では何故私はこんな姿なのか。母親と別れこの部屋で目覚めるまでの間、その記憶がすっぽりと抜け落ちている。漠然とした不安とそれに勝る恐怖だ。


何も考えたくなく部屋の隅で身を縮めジッとしている内に眠っていたらしい。又、いつもの感触で目が覚める。ああ、そうか。全身を舐められ嬲られる感触でようやく思い出した。これは悪い夢だ。終わらない悪い夢。だってその証拠に、そこに夏油がいる。私の霰もない姿を眺めている―――――



「…、君は一人っ子か。可愛がられたのだろうね」
「…」
「現在は都内の私立大学に通っている。一番人気のゼミに入れるくらいの自意識があるのにここ最近は休みっぱなしだ。ああ、すまない。私のせいだったね」
「………」



夏油は報告書を見ながらに話しかけている。先程から彼が口にするのは全ての個人情報であり、どうやら何から何まで調べ上げているらしい。酷く恐ろしい状況なのだろうが、全身を這い廻る何かが延々と浅い挿入を繰り返している為、夏油の言葉はまったく頭に入って来ない。浅い感触は疼きを継続させるだけで達する事も出来ず体液を滴らせるばかりだ。


夏油の性器は熱く硬い。舌先で感触を確かめるように舐め、熱の籠った目で男を見上げるが彼はこちらを見ない。膣口を僅かに出入りする感触に耐え切れず自身の右手を伸ばすが、夏油の足がそれを遮った。



「駄目だよ、。それは許していない」



が涙目で見上げる。そう。その顔だ。その顔が劣情を刺激する。の身体は散々嬲られ限界のはずだ。咥えさせながら緩々と入口を弄るような状態を続けており挿入はしていない。


の身体は完全に発情している。 動きを止められたが今すぐに挿れてくれと言わんばかりに性器にしゃぶりついた。唾液でドロドロに溶けた口内に吸い込まれていく。そろそろ頃合いかと見てに憑りつかせていた呪霊を撤退させる。全身を弄る感触が急に消え彼女は動揺したようだ。


「どうした、。解放されて随分楽になったろう?」



夏油は言う。



「お前を散々悩ませていたんだろう?よかったじゃないか」



数日焦らされた身体は疼きが止まらない。つい先刻までなにものかが蠢いていた膣口はひくひくと物欲しげに蠢きその奥の子宮口の辺りが熱く疼く。口の中から性器を吐き出しながらどうした、と見つめてくる夏油を見上げた。



「…やれやれ、そんなにもの欲しそうな顔をするんじゃない」
「お願い、もう」
「お前が私に乞う事も許していないよ」



自分で慰めなさい、と夏油は囁いた。私が見ていてあげるから。ごくり、と唾液を飲み下す音がした。自分自身から聞こえた。夏油にも聞こえただろうか。操られるように反対側にあるもう一つのチェスターフィルドソファーに座り足をM字に開く。


正直な所、もう正気でない。まさか自らそんな真似をしているだなんて自分でも信じられない。熱に浮かされたような頭の中にもやがかかっているようなそんな感じ。思考が正常に行われていない。そこに意思がない。だからこれは嘘だ、違う。きっとこの男に操られている。


はあはあと漏れる己が吐息が酷く耳障りだ。熱を持った膣へ指先を誘えば溢れる体液に気づく。指先でそれを掬い一本、二本と指を埋める。ぬめぬめと別の生き物のように動く膣内は指をぎゅうぎゅうと締め付けた。自分の指では奥まで届かない。分かっているし、分かっているはずだ。夏油はこちらを眺めている。



「もっと開いて中をよく見せてご覧」
「あぁぅ…」
「足は閉じるな」



指では中の疼きがまったく癒えない。夏油の前でよく見える様に小陰唇を二本の指で左右に開く。羞恥もなくなり求めるのは只一つだ。左右に開いた指先は体液で濡れる。



「助けて…」
「…」
「お願い」



こちらへおいで、と夏油は言った。這うように夏油の元へ向かい跨る。



「自分で挿れるんだ」
「っつ…」



夏油の性器を掴み自分で膣口に宛がう。一気に押し込む事が恐ろしく躊躇していれば夏油の手が腰を掴んだ。制止する間もなく力任せに落とされた。










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連日の如く押しかけているの父親が夏油と会う事になったのは、が戻らなくなって丁度一週間が経過した頃だった。何度断られてもそこに娘がいると思えば諦める事が出来ない。その一心で連日教団へ押しかける。


その日、教団前で押し問答しているところにようやく夏油が姿を見せた。思わず掴みかかる。夏油はそんな父親を軽くいなし口を開いた。



「娘を返せ!!」
「いいえ、お嬢さんは自ら望んで入信なさってるんですよ」
「そんなわけは…」
「おいで」



嫌な予感はしていた。この夏油の態度を見るにそれは事実なのだろう。夏油がおいで、と呼んだのはだった。ふらふらとした足取りで出て来たは完全に目の色が変わっており完全に正気でない。


我が娘のあまりの有様に言葉を失う。そんな父親の心境をあざ笑うかのように夏油が口を開いた。



「彼女にはよくないものが憑いているんですよ、これを祓うには時間がかかる」



お前だろう、と腹の中で吐き捨てる。よくないものは夏油、貴様だ。



「お前の望みは叶える。娘と交換だ」
「お待ちしておりますよ、お父様」



狼狽える事無く踵を返した父親の姿を夢現の状態では眺めていた。あれが自身の父親だという事は辛うじて分かるのだが思考は停止状態で言葉一つ出て来ない。


ここに来てからというもの24時間呪霊に全身を嬲られている状態が続いている。僅かに残った自尊心が父親の前で痴態を晒す事を耐えた。


父親が消えすぐに近くの部屋へ駆け込み床にへたり込んだ。僅かに開いた唇から唾液が線を引き零れた。口元を手で押さえそれを拭う。背後でドアが締まる音がした。続く足音。増す気配。夏油。



「よく耐えたね、



偉いじゃないか、と夏油は言った。それを契機に四つん這いになり喘ぎ出す。もう私は駄目なのだろう。この男の思い通りに喘ぐ只の血の詰まった袋だ。四六時中性感帯を刺激され感覚が収まる瞬間がない。男の声は脳に障る。私だけでなく、この身を弄るなにものかにも祟る。



「困ったね」
「ぁー…あ」
「私はお前を手放さなければならないようだ」



ググ、となにものかが体内に侵入する。切な気に腰を揺らし喘ぐの髪を撫でながら夏油が囁く。どうしようか。そんな夏油の問になど当然答える余裕はない。ひたすら呪霊に犯され続ける肉の塊として何も考えられず喘ぐ他なかった。










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その一週間後、父親は夏油の望みのものを持参した。それと引き換えに家族を取り戻す算段だ。彼は明確に法を犯し夏油との約束を果たした。


夏油はあっさりを手放した。彼が最後にかけてきた言葉は「ご苦労だったね、。もうお前は大丈夫だよ。悪いものは全て祓った」であり、あのいかがわしい感触は微塵も感じなかった。男の言う通り憑き物が取れたような奇妙な清々しさに包まれている。


そうか。悪い夢は終わったのか。 帰りの車内で父親からはしきりに心配をされたのだが、そこで気づく。余り記憶が定かでない。いや、記憶が、ない。あの場所で私は何をしていた?


家に帰り真っ先に風呂に入る。全裸になり洗面所で身体を見回すが特筆すべき点はない。父親は受診を勧めたが断った。


初日の夜は緊張と共に迎えた。丑三つ時を過ぎても変異は起きずそのまま朝を迎える。終わったのか。そう思う。翌日もあれは来なかった。その次も、次も。悪い夢。悪い夢?全ては悪い夢だったのか。ぼんやりとした記憶を抱いたまま元の生活に戻る。


大学にも通い出しゼミにも顔を出した。 全ては元通り、この数か月は悪い夢だった。生活を立て直し、一旦距離を置いた彼氏とも連絡を取った。彼に会いたいというよりも満たされないからだ。自分でもはっきりと自覚できる程に酷い欲求不満の状態が続いていた。


彼はからの連絡を喜び久々に会う事になった。しかし、会えない。いざその日になると、どちらかの身内に事故が起きたり、単純に交通機関の麻痺で会えなくなる。余りにも続くのでこちらから断りを入れた。会いたくないのであれば最初からそう言ってよ、変に期待を持たせないで。相手はしきりに違うと弁解していたが連絡はそこで終わった。


不自然な程に欲求不満の状態は続く。まるで排卵前の性欲が常駐しているかのようにだ。夜中、あれが襲い来る時間帯に気づけば自身の手で慰めるようになった。こんな事はよくない、何かがおかしいと思いながらだ。


そんな日々が続いたある日、夜中に見知らぬ番号から着信があった。丁度その時も自身で慰めていた。暗い室内を照らす灯りに視線を奪われる。普段であれば見知らぬ番号からの着信など決して出ないのに不思議なほど自然に指が動いた。


もしもし。そう言った刹那返される、やあ、という男の声。夏油。その声を聞いた瞬間、失われていたはずの記憶が一気に蘇った。全身が痺れるような感覚に襲われ又あの時と同じ状態に陥る。全身を舐めまわすあの感触―――――


見えない何かは一晩中を苛んだ。これまでは日が昇れば収まっていたのに今回はお構いなしに四六時中犯される。朝が来ても陽が沈んでも変わらず延々とこの身を貪る。


部屋から出る事も出来ずベットの上で只、身悶える。不定期に訪れる僅かな無の時間を使い外部へ助けを求めようとするも、そんなを嘲笑うかのように襲い来る。


その状態が三日ほど続きマトモな生活は送れなくなった。の体力は限界に近づいてた。辛うじて水分だけは身を弄る何かが与えてくれていた。携帯で誰かに助けを求めようとも、こんな状態を知らせるような相手はいない。それに携帯に手を伸ばすと動きは激しさを増す。


そんな中、又しても真夜中に電話がかかって来た。テーブルの上でガタガタと震えている。出る気にもなれず視線だけを向けていたのだが、何故か勝手に応答になっていた。スピーカーから夏油の声が聞こえる。



「やぁ、。辛そうだね」
「た、助けて…」



譫言のように呟く。



「明日の朝、教団においで。6時きっかりに動くといい。その間だけは安心して外に出られるようにしておくよ。私の言いつけが守れるかい。私の元に来るんだ、



夏油の声を聞くと否応なしに嬲られた記憶が思い出され、口元を抑え声を殺しながらイった。夏油には知れているだろう。通話が切れた後も絶え間なく責めは続き朦朧とした意識の中、夏油から言われた言葉が脳裏を過る。あの教団になど絶対に行ってはならない。警鐘は鳴っている。当たり前だ。あんな男の元に行ってはならない。


しかしふと目覚め時計を見て戦慄する。朝6時。全身はびっしょりと汗まみれだが、あの感触はない。夏油の言う通り奴は消えた。 ふらつく足取りでシャワーを浴びながら無理矢理にでも頭を働かせる。考えろ、考えろ。このままあの男の元に向かってはならない。どうする、私はどうしたらいい。


そう言えば教団から帰る車内で父親が言っていた。東京都立呪術専門高等学校。妙な事が起きたらまずそこへ連絡をするんだと言っていた。 父親は伝手があるようだが、今から父親に連絡をする事が出来ない。下手に連絡を取ろうとしたが最後、又あれに犯されるかも知れない。それだけは避けなければならない。


この絶好のチャンスをふいには出来ず携帯で高専の場所を調べる。服を着替え化粧をし、とりあえず高専最寄りの駅まで向かった。 電車に乗り込みまんじりともせず目的地へ向かう。夏油が気づく前に到着する必要があった。


乗り換えで降りたターミナル駅のホームを足早に歩く。階段を降り切った時だ。全身を這う感触に襲われ息を飲んだ。アレだ。アレがよりにもよって今この身を襲った。衆人環視の中で全身を舐められる感触に怯え走り出す。


じわじわと押し寄せる快感から気を逸らすように人気のない地下の多目的トイレへ駆け込んだ。震える手で鍵をかけ、そのまま床に崩れ落ちながら口元を抑える。激しく身体が痙攣し何度も達した。


頭の中は完全にパニック状態だ。どうして、どうして。どうして。扉一枚挟んだ通路からは人々の行き交う音が聞こえる。這って扉から離れた。


その刹那、鳴る携帯。恐ろしくて出る事が出来ない。切れた。鳴った。切れた。今度は勝手に繋がった。スピーカーから夏油の声が聞こえる。



「残念だよ。私の言う事が聞けないとは」



そこまではスピーカーから聞こえた。はずだ。



「躾がなっていないようだね」



涙を流しながら必死に声を殺しているの目前、空間が切れ、その隙間から夏油が姿を見せる。分からない。もう何が起こっているのかさえ私には分からない。どうしてこの男はここにいるの。



「わざわざ出迎えに来てやったんだ。そう驚く事はないだろう?」
「いや、嫌…」
「…」



夏油が空を掴んだ。そのままズルズルと引き抜く。体内で必死に蠢いていたものが引き抜かれ、同時に熱い体液が迸った。自分でもハッキリわかるほど膣内がひくひくと動き物足りないと喘いでいる。痙攣する太腿はそのままにが嫌、と頭を振った。



「立ちなさい」



首を振る。



「立つんだ」



が嗚咽を漏らす。



「仕方のない子だね、お前は」



夏油はの腕を取り無理矢理立たせた。足腰の立たない彼女を片手に背後から挿入する。嫌だ、かやめて、か。が喘ぎ声交じりに呻いた、挿れた瞬間に膣肉がぎゅうぎゅうと締め上げ彼女が散々に感じている事を伝える。


洗面台に手を付かせ背後から腰を叩き付ける。の口の中に指を入れ、前面の鏡によく映るように顔を上げさせた。耳側で囁く。



「よく見ろ、。このお前の乱れ切った顔。これがお前の本性なんだよ。人を堕落させる淫な畜生」
「やら、あ、んぅ」
「だから私が飼うんだ。こんなに淫なお前を野放しには出来ないだろう?」



夏油の吐息も熱い。背後からガンガンと突かれ子宮口の辺りが痺れるような快感に襲われる。死ぬほど気持ちがいい。気持ちがいい。気持ちが。



「私の精をくれてやるのは特別だ。これがお前との契約だよ、。いいね」



だめ、と言う間もなく体内に射精され、夏油の腕が離れた。ズルズルと床に崩れ落ちるの腕を掴み眼前に体液に塗れた性器を突き付けられる。ああ、と呻いた。それから先に言葉は続かない。只、ああ、と。それは了承の意なのか諦めの言葉なのか分からない。


自ら進んで口に含み無駄な体液を舐めとる。自身のものと夏油のもの、それらを丁寧にしゃぶり尽くす。



「さぁ、戻ろうか。お前の檻も準備してあるんだ」



夏油は言う。



「今日からお前はそこに住むんだよ。いい子に出来るね?」



の口から性器を抜きながら髪を撫でる。私はもう―――――










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教団施設の地下五階にある天井の低い座敷のフロアにはいる。以前と違い部屋の中央には座敷牢が設けられ、彼女はその中で呪霊に犯されながら日々を過ごす。東西南北全ての方向からの痴態は鑑賞できるのだが、呪霊に犯されているは一点を見つめている。


の視線の先ある小上がりには夏油が座っており、彼女は夏油に向けて足を開く。室内にはの喘ぎ声が響き渡り濃い雌の匂いが充満している。


本を読んでいる夏油は視線も上げず、時折呪霊の動きを止めたり強さを増したりと気まぐれにを苛む。何故か、なんて愚問だ。理由などない。たまたま隕石の直撃を喰らうようなもので、そこにがいたからだ。


それでもこの身は明日も明後日も、その先も。恐らくは命尽きるまでこの男に飼い殺される。夏油の声が何事かを命じる。私はもう逆らう事が出来ないのだ。