何だか嫌に昔の事を思い出してしまった。
あれはいつだろう、中学、いやそれに入る前だったか。
ガキはガキなりに淡い恋心なんてものを抱いてしまい見事玉砕、
まあ苦い思い出というやつだ。
そんなに凹む事無く(まあ自分の生活環境が色濃く影響しているのだろうが)
サラリと記憶は塗り替えられる。それなりに経験も済ませた。
(あの二つ年上の先輩は一昨年、出来ちゃった結婚をしたらしい)
まあ今は色恋沙汰なんかよりもよっぽど重要な用件が
山ほどあるのだから余り余所見はしない。
していないつもりだ。つもりだった。
兄弟が多いという事はその辺り、非常に情報が多いという事であり、
必然的に知り合いも増える。
同じ性別の兄弟だとしても思いの他好みというものは似つかないらしい。
グラビアのアイドルでも同じ、私生活でも同じ―
いつだったか(あれは酒が入っていたと思うが)
そんなつまらない話をした時に初めて自分の好みを知った、客観的事実を。
光政はそうと思っていなかったけれど、どうやら非常に面食いらしい。
いや、好きになった女がたまたま、
幾らそう言おうともお前は顔で決めていやがるんだと返される。
そうして、そう返されれば二の句も出てこず、やはりそうなのかと思えた。
格好いい女が好きだ。画になる女。
可愛い女よりもキレイな、あぁ、やはり格好いい女だ。
それにスタイルのいい女。
そう考えていればやはり自分は面食いなのだろうと思えた。
「なぁにやってんのよ」
「うるせぇよ」
「うるさいって何よ」
長兄光信の知り合いが臨時の教師として
この鳳仙学園に赴任して来た時から薄々感づいてはいたのだ。
若い女が校内にいるだけで色んな標的とはなる。
大体ほとんどの生徒がマトモに授業一つ受けはしないこの学園で
冷やかし程度でも珍しく大人数の生徒が授業を受けるわけだ。
男子高校生の下世話な野次に顔色一つ変えず
(時には相手を引かせるほどの)口を利く女。
今の今まで不必要だと思っていた美術の授業の
有り難味を知った瞬間でもある。
「あんたのクラス、半分以上日数足りないんだけど」
「知るかよ」
「あんたもね」
「・・・」
「あたし、一々補習とかしたくないのよねぇ。臨時だし」
出席するだけで単位が取れるの授業を落とすわけにはいかない。
まあ声をかけさえすれば皆出席するだろう。
(そうしてそれは酷く異様な光景に違いない)
美術準備室に大体一人でいるは詰まらなさそうに音楽を聴いている。
「そうそう、昨日光信に会ったわよ」
「へぇ」
「元気だけど、相変わらず馬鹿よねぇ」
が笑った、酷く愉しそうに。
なぁあんた兄貴の女なのかよ。
一度だけ光政は聞いた事がある。
はしっかりとマスカラでコーティングされた睫を数回瞬かせた後笑った。
だから光政は未だ明確な答えを聞いていない事になる。
何となくの流れで光信にも同様の質問をしてはみたものの、
光信はしかめっ面をし冗談じゃねぇ、そう呟いた。
あの時はどういう反応なのか分からなかったが、今となってはよく分かる。
「って言うかさ、今授業中でしょう」
「あぁ」
「あんた、授業でなくていいの?折角登校してるのに」
「ここにいちゃ悪ぃかよ」
「いや、悪くはないけど」
「コーヒー淹れてやろうか」
「それあたしのエスプレッソマシーンだから」
「うるせぇな」
本当に。
が来てからというもの
この美術準備室に入り浸っている事を光信は知らない。
これから先も知る事はないだろう。
幾度かのやり方を見ながらしっかりと覚えた操作方法、
狭い室内に濃いエスプレッソの香りが充満する。
そつのない感じで生活を営むこの女が不思議なだけだ。
どうこうしたい、そういう事じゃあない。
「あぁ。そう言えばあんた、鈴蘭に知り合いいる?」
「はぁ?」
「あたし、ここの前はそこにいたんだけどさ」
「マジかよ」
「九里虎って子知ってる?」
「は!?」
「あの子面白いのよねぇ」
この前ここに来てたわよ。
と九里虎、その組み合わせに若干冷や汗すら出た。
頭の中に思い浮かべすぐに消す。思いの他似合っていたから。立ち姿が。
は長い髪をしている、日に当たるとキラキラと輝く。
右手の薬指に三連のリングをしている、左にはない。
首の後にトカゲのタトゥーをいれている―
「高校生だましてんじゃねぇよ」
「何よそれ、人聞きの悪い」
「お前、彼氏いねぇのかよ」
「彼氏?」
極自然な流れで問うたつもりだ。極力自然に。
それでもは可笑しそうに笑い、
どっちでしょうなどと詰まらない事を言う。
まさか、知れているのか?
「どっちでも構わねぇよ、俺に関係ねぇだろバカ」
「何で逆切れよ」
「うるせぇ」
「どっち言っても信用しない癖にねぇ」
腹の底を見透かしたようなの口調が本当に苛立つ。
どこででも、色んなヤツに同じような事を言っているんだろうと思う。
そうしてどいつもこいつも同じ事を聞くんだろう。
そう、九里虎も。恐らくは。
「よっぽどあたしの事が好きなのねぇ、光政は」
唐突にそんな事を、そうして名前を呼ばれたもので
酷くうろたえた光政はバカなんじゃねぇのこの女、
そう吐き捨て準備室を出て行く。
耳は赤く染まっているものの、
こちらを見ないからどんな表情なのかは分からない。
勢い良くドアを開ければ小野達がこっそりと中の様子を伺っていたらしく、
固まっていたのでもう一度今度は何してやがんだ、
そう吐き捨て授業中の廊下を駆け抜けた。
そう、今日この日、
リクB小浦さんへ。
光政かブッチャー、設定は恋人未満
というリクだったんですが、どうでしょう。
というかまず、遅くなって本当スイマセン(土下座してもし足りない)
考えた結果光政にしたはいいものの、
まさかの生徒と教師。・・・私のバカ!(救いようのない)
しかも九里虎とか無理矢理気味に出してますからね。スイマセン。
同年代じゃなく、上から物を言わせて、みました・・・あわわ・・・
リク、有難う御座います。