「総悟!!」
絶妙なタイミングで土方が入って来たところを見れば
どうやら盗み聞きをしていたらしい。
刀を握った沖田の利き手を掴み必死の攻防。まさにその時だった。
少しだけ気の緩んだ沖田の腹を蹴り上げどうにか逃れる。
沖田は沖田で立ち上がろうとしたが土方に遮られた。
「何て目で見てんのよ」
殺されかけたのはあたしでしょう。
そう呟けば土方は何も言わず、沖田を支え出て行った。
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相も変わらず粗茶も出さんのかこの店は。
桂は毎度のように愚痴っているし、
そんな桂を目の前に今にも眠りこけそうなのは銀時だ。
今日は朝早くから神楽も新八も出かけており
(別に銀時が置いていかれたわけではない、らしい)
やれやれ、ようやくゆっくり出来るぜと
二度寝を決めかけた時、桂はやって来た。
3度まではインターフォンを無視していたが
(というか4度目はなかったのだ)半ば強引に、
まぁ壁をぶち破ってまで入って来られれば相手をせざるを得なかった。
「・・・で、何だよ」
「銀時・・・エリザベスが喉の渇きに耐えかねているのだが」
「知らねェよ」
「そうして貴様のものであろう年季の入った酒を煽っている。すまない」
「・・・」
まあ前置きはそれ位にしておくとしてだ。
桂がエリザベスから視線を外す。泣く泣く銀時も外した。
「―を覚えているか?」
「!」
「こら、エリザベス。そこで用を足しては」
「ズラ!おいズラ!」
「すまない」
「いや、ぜってェ許さねェ。つーか始末して帰れ。
いや、そうじゃなくての話は」
「あぁ、すっかり忘れていた。そうだ、。覚えているか?」
「・・・生きてたのか?」
「うぅむ。生きていると言えば生きているし―」
「何その言い方。怖いんですけど」
「真選組の座敷牢にいるらしい」
「は?」
桂の話はこうだ。
先日、内偵に出していた同志の一人が血相を変え戻って来た。
何事かと問えば真選組の中、奥の座敷牢にがいたと―
こいつは怪訝な話だと思ったらしい。
「あいつもしぶてェ女だからな」
「ここ最近は高杉と一緒にいたんだが・・・」
「・・・マジで?」
「何だ銀時、それも知らなかったのか」
「初耳だぜ」
思い出せるの姿はまったく現在の世にそぐわない。
あの掠れた眼差し、尖った性質―
唯一変わっていない点が高杉と一緒にいる部分だとは。
最も変わるべきだった箇所だけがまったく変わっていない。
悪癖だなと思った。にしろ、高杉にしろ。
あの戦が終わってからというもの昔の顔見知りは
今目の前にいる桂と時折最悪のタイミングで遭遇する坂本、
そうして話題に上がった高杉位のものだが、皆一様に代わり映えしない。
まぁ、こんな事を口に出せばそれはお前も、そう言われるのが関の山だ。
「数年前までは廓にいたんだが」
「マジで!?」
「あぁ、俺が客引きをしていた向かいの廓だったからな」
「俺、何か立ち直れそうにねェんだけど・・・」
「何を言う。奴は立派に職務を果たしていたぞ」
「うるせェよ」
昔の姿しか思い出せないでいるというのに
職務を果たしていたと言われても混乱が広がるだけだ。
高杉と背中合わせで刀を握っていたの姿が思い浮かぶ。
「つーか」
何で俺にその話をしたんだよ。
ふと我に返り抱いた疑問をぶつけた。
桂は何も言わずに(エリザベスが勝手に淹れた)茶を啜る。
「おい、ズラ」
「桂だ」
「・・・何考えてやがんだコラ」
「に、会って来たらどうだ?久々だろう、何年振りの再会だ?」
「・・・オメーが行け、ズラ」
「俺が行きたいのは山々なんだが―」
「じゃ、行け」
「・・・あれはいつだったかな、
お前が先頭を切っての入浴を覗き、それが高杉にばれて―」
「ふざけんな、ありゃあ坂本が先に―!」
「挙句唯一の女子であったに対し夜這いを敢行し―」
「スイマセンでした」
「確かそれも寝ずの番をしていた高杉によってあえなく断念を―」
「つか何でそこまで知ってんの?お前も見てたろ」
あれはいつ頃の事か。まだ蝉が煩く泣き喚く前だったような気がする。
若さ故の過ちというには余りに浅はか過ぎる
(しかし坂本に関しては若さ云々の問題ではないのだが)
行いが今まさに走馬灯の如く蘇る。
そう、あの頃。
のそばには必ずといっていいほど高杉がいた。
まるで番犬宜しく、全てを追い返す役割だ。
あの二人が果たしてどのような関係なのかと無粋に探るものはおらず、
あれは番で一組なのだと、それが一番自然な姿なのだと思っていた。
―――――そんな高杉が?
世に揉まれ昔以上に捩れてしまったとでもいうのか。
が真選組に捕らえられても尚平然としているのか。
余りに不自然過ぎる。いや、人の心は時と共に風化する気配もある。
「高杉には会ったのか?」
「何故俺が高杉に会わなくてはならないんだ」
「いや、お前・・・」
「大体俺は昔から反対していたのだ、
あんな男と一緒にいても幸せにはなれないと。そもそもがだな」
「うるせェよ」
「・・・お前だってそう思っていたろうに」
「・・・」
桂は平然と言ってのける。
そりゃあ随分古い話になるのだから他意はないだろう。
今はそう思っておく事にした。
しかし真選組に捕らえられているとすれば厄介な事になる。
そもそもは何故座敷牢にいるのか。
無理矢理に桂を追い返し、三十分程ソファーに寝転んでいたが
頭の中がむしゃくしゃし勢い良く身体を起す。
「・・・めんどくせェ」
それでも足は真選組の方へ向かっているのだから仕方がない。
高杉どころか主人公さえも出て来ない有様に!
驚くほか手がない!
というかもう銀時も桂も出してしまった・・・
むしろ銀時が一番動く役割になってしまった。
・・・一体誰の話なんだ。