いつも通りの街並みを眺めながらとぼとぼと歩く。
まったく気づかなかったがもうじき大きな祭りがあるらしい。
よそ者と一目で分かる集団が屋台の骨組みを作っていた。
「・・・うん?ありゃあ」
テキ屋の集団の丁度中心に土方がいた。
どうやら許可証を配っているようだ。
あの男に話を聞く事自体間違っていると分かっていながらも、
まずは手近な所から攻めていくしかないと思い意を決す。
「オラ!押すんじゃねェ!あ〜ハイハイ、リンゴ飴ね、はい次」
「土方さん」
「何だ、あ、ホラおじいちゃん。
ここは歩行者用通路になるからもう少し屋台を下げて―」
「よォ」
「―万事屋」
土方は一瞬視線を寄越し、すぐに戻した。
銀時は銀時で予想通りの態度にイラついたが、
この程度のジャブで倒れるわけにはいかないと無理矢理に笑う。
怪訝そうな表情で土方がこちらを見た。
「・・・何だ手前、気持ち悪ィな」
「いやァ、あの・・・あ、今日はピンですか、ハハ」
曖昧に笑いながら会話の糸口を探す。
相手が若い女ならまだしも何が悲しくて土方相手に
こんな駆け引き染みた真似をしなくてはならないのか。
それでもピンですか、そう言った時に土方の表情が
一瞬だけ翳ったのは見て取れた。
仕方がない、そこを突くか。
「いつものアイツはどーしたんだ?」
「・・・休暇中だ」
「有給でも消化してんですかァ?」
「邪魔だ、用がねェんだったらとっとと失せろ」
まったく可愛げのねェ野朗だなと腹の内で舌打ちを。
どうやら今回は沖田の代わりに山崎を連れているらしい。
大物よりも小物を狙うか。
思いの他小物はその身にそぐわず大きな宝を持つ―場合もある。
土方にわざとらしく頭を下げ雑踏に紛れながら山崎の背後に回りこんだ。
そのまま勢いよく引きずり込む。
「痛っ!あ、旦那!?」
「コンニチハ」
「何してんですか!つか、何考えてんだ!」
「今、お前んトコにって女、捕まってんだろ」
「!」
「どういう経緯かちょっくら教えてもらっちゃおっかなァ」
「!旦那、何であの女の事を―」
「オイ」
首筋にヒンヤリと冷たい感触がし、確認しなくてもそれが刃だと分かった。
オイオイ、マジかよこりゃあ。
山崎の様子から察するに相手は―――――
「何をこそこそ嗅ぎ回ってやがんだ」
「の顔でも拝みに行こうと思ってね」
「だと?手前はあの女の知り合いか何かか?」
「昔の女で―」
「―何?」
咄嗟に口から出た『昔の女』という嘘に何故か土方が異様な反応を見せた。
今更嘘ですとは言えない様子だ。
「・・・そうか。なら仕方がねェ」
「え?」
「ついて来な」
何この人あっさり信じちゃったの?
銀時と山崎が顔を見合わせる。
何か裏があるのではないかと軽く探れども土方は
分かるぜその気持ち、そう答えるだけでラチがあかない。
案外引き摺る男なのかという、知らなくても良かった
土方のウィークポイントが判明しただけだ。
屯所に近づくにつれ先ほど己が吐いた嘘がやけに重く感じられる。
どうする―今ここで嘘でした等と言い許されるのか。
<オイ。こりゃどういう事だよ>
<いや、分かんねェっすよ>
<野朗、何かあったのか?>
<さァ・・・何か引き摺ってんスかね>
<ヤだねェ、女々しい男ってのは>
二人で話し込む。無論小声でだ。
いざ屯所に入る。(どうやら土方は何かを思い出しているらしく、
時折天を仰ぎ涙を拭っていた)他の隊員が
銀時の存在に何かを言いたげだったが、
異様な土方という格好のバリアのおかげですんなりと進む事が出来た。
「オイ、そーいやお前らんトコって有給どんくれェつくんだよ」
「は?有給ですか?」
「お前らんトコのS王子が―」
「沖田さんの事ですか?」
そこにいますよ。
山崎が言うのと同じタイミングだ。
まるで八ツ墓村の様子になった沖田が襖を開け出て来た。
何だオイ、ありゃあ新しいコスプレか?銀時が呟く。
沖田は銀時が屯者の中にいる事に疑問さえ抱かず、
こりゃあ旦那、お久しぶりですねィ、
と告げながら土方を素通りしようと―したが流石に止められた。
「離して下せェ土方さん、俺ァ今から野朗を殺しに行くんですぜィ」
「お前はどっか病んでんのか!」
「どっからどう見ても病んでんじゃねェか、なァ?」
銀時がそう言えば山崎が頷く。
「殺す殺さねェかは置いといて、まだ休んでろ」
「有給じゃねェだろ、あれ」
「身体はすっかり元気ですぜィ、・・・旦那何をしてるんですかィ」
「いや、俺はちょっと―」
普段通りに言う事を聞かない沖田を置き、土方が奥に進む。
休んでいろと言われた沖田は銀時に何をしているんだと聞いていた。
最早主人公が出て来ない。
その割りに登場人物がやたら多いという…
土方は昔の女をひきずるイメージです、どうなのそれ。