初めて訪れる町なんてものはピンキリであり、
どうやら今回の町は当たりに近いようだ。
妙にぎらつく街並みをゆっくりと見渡し
こいつは楽しめそうだと腹積もる。
真昼にはまったく人気がなく、丁度陽が落ちた辺りだろうか。
その位になればわらわらとどこからか人々が湧き出し上手く活気が作られる。
ふうとジンを宿に置きムゲンは一人繰り出した。
女を連れて歩く理由がここにはない。
その辺り、目と鼻の先にいい女は山ほどいるのだ。
こんな生活をしているのだから特定の女は要らない。
必要だと思った例がない。
金でケリをつけられるいい女、それだ。それが一番欲しい。
丁度一昨日に稼いだ金を根こそぎ持ち出し
まずは軽く酒を煽り景気づけだ。
気づけば見知らぬ男達と乱闘、店は折り紙よりも容易く崩れ去った。
そうして次に気づけば甘ったるい匂いの充満する紫色の部屋にいた。
「どこだ?こりゃあ」
「あたしの部屋よ」
「うん?」
女はこちらに背を向けたまま鏡台に向かっている。
大きくあいた背中に舌なめずりし腕を伸ばす。
女は髪を梳かしていた。細い肩を掴みこちらに引き寄せる。
「・・・お前!」
「あんた、何やってるのよ」
「オメーこそ、何」
初めての女だ。
あの島を捨てたにも係わらず頭の奥に
ずっと居座り続けていた女が今ムゲンの腕の中にいる。
夢にまで思い描いていた光景にも係わらず反射的に突き飛ばした。
が不機嫌そうな顔のまま笑う。
「何してるのよ」
「いや」
「あたしが好きであんたを連れ込んだなんて思わないで頂戴ね」
「あん?」
「あたしはもう一人の、凛とした男の方がよかったんだから」
「凛とした、だぁ?」
「あんたの連れじゃないの?色の白い」
思い当たるふしはあったがあえて告げない。
冗談じゃあねェ。そもそも覚えがないのだ。
「オメー、何やってんだよ」
「何って。見て分かるでしょ」
「何で―」
「うるさいわね、さっきから何なのよあんた」
寝てた方がまだマシだったわ、大人しくて。
はそう言い又髪を梳かす。
何故だか傷だらけの手足を見つめながら柔らかな布団に寝転がった。
甘い香り、これは何の香りだろう。
情事の香りだという事に気づき辟易とする。
あの頃より少し痩せただろうか、何かどこか変わった箇所はないだろうか。
あら捜しをしていれば人の事より自分はどうなんだと思い考え出す。
「あんた寝ながらあたしの名前呼んでたけどさ」
「あぁ!?」
「何?やっぱりアレ寝てたの?」
「呼んじゃいねーよ!」
「呼んでたわよ、、って」
「・・・」
何か用があったわけ?
櫛を置き紅を引く。果たして誰の為に?
「仕事かよ」
自分でもはっきりと分かるほど不機嫌な声で
そう吐き出したムゲンは思い通りにならない苛立ちに苛まれ始める。
はそうよ、平然とそう答え立ち上がった。
立派な商売女の参上だ。
下卑た口笛を吹き下からじっとりと見上げる。
「いつまでいるの?それとも押入れに隠れて、覗くつもりなの、あんた」
「うるせェよ」
「だったら帰んなさい。」
あんたに買われる気はないわよ。
ピシャリとそう言いのけは部屋を出て行く。
まだ酔いの抜けていないムゲンは天井を仰いだまま目を閉じる。
ここから出て行く気は更々ないのだ。
それが酒のせいかどうかは分からない。それでも。
「・・・何だよ」
ポツリと呟く。
の事を思いながら酒を煽るなんて、余りに馬鹿げていると思った。
他の女とやった所でだ。ほんの小さな箇所でが出て来る。
今まで考えた事はなかったがどうやらそうらしい。
寝言で名を呼ぶ程に。
ゴロリと寝返りを打てばフワリと甘い香りが上がった。
の匂いだと分かった事が嫌だった。
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目が覚めれば隣にが寝ていた。
当然といえば当然だ、ここはの部屋なのだから。
それでも息を飲むほど驚き身体が強張る。
は疲れているのか酒を飲んだせいなのかは
分からないがすっかり寝入っているようだ。
これまでに幾度か考えた事が今更のように蒸し返される。
今の自分を見ればどう思うのだろう。
あの頃の脆弱な自分と比べれば随分変わったように思える、思っている。
身体つきにしても心にしても全てがだ。
抱かれた事実は全て過去に、今ならをこの手が抱けるに違いない。
それにしても何故はこんな場所でこんな仕事をしているのだろうか。
化粧を取ったの顔は青白く、微かに頬がこけていた。だからだ。
耐え切れなかったのだ。恐らくは。
寝入ったをゆっくりと抱き上げ連れ出した。
二割の為、残りの全部は自分の為に。
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「・・・お前、それは」
「うるせェ、触んじゃねェぞ」
「どこでかどわかして来たんだ」
「キレーイ!どうしたの?って言うか、誰?」
「名前は、あー何つーか、拾ってきた」
ムゲンの苦しい言い訳はその後目覚めたにより軽く打破された。
商売姿のまま連れて来られたは
余りに強引なムゲンのやり方に呆れてこそいたものの、
どこで暮らそうが大差ないらしい。
その辺りの希薄な感覚は昔と変わっていない。
大方フラリと出かけてきた先で金がなくなり、
そのまま条件のいい先ほどの廓にでも入ったのだろう。
昔と同じように側にいれば何かが分かるような、
全て元に戻るような気がしていただけだ。
只ここにいてくれればそれだけで。
それが余りに淡い思いだったとしても―――――
まるで報われない希望のようなものだったとしても。
リクD香湶さんへ。
ムゲン夢ジン絡みというリクだったんですが、どうでしょう。
というかまず、遅くなって本当スイマセン(本当に)
何かもう無駄に長いし、しかも続くし。
いやスイマセン、まだ続きます。本当スイマセン。
どちらかといえばムゲンが可哀想な気がしないでもないんですが、
この先どうなるかは未だ不明、らしいです。ああ・・・
リク、有難う御座います。