もう、こんな事はやめなければならないと思い
そうして口にし、どれだけの歳月が経過してしまったのか。
こんな、誰もいなくなった部屋で近づく足音を恐れ、それでも逃げる事は出来ないでいる。
元々デスクワークは部下に任せていたのに、
そんなが何故万年筆を片手に詰まらない作業を繰り返しているのか。
全てスモーカーのせいだ。最初から、そんな気はなかった癖に。
夕方も過ぎ、もうそろそろ夜勤の人間が顔を出す時間帯だ。
まだあの男との約束は果たせていない。詰められるだろうか。
その事ばかりが頭の中を占め、やらかす事のないミスばかりを連発してしまった。
明日期日の始末書(まあそれはが海賊を捕獲する際、
少しばかり力の加減を間違った為、引き起こされた器物破損の、だ)
を何度書き直したというのか。
「…入るぜ」
「駄目です」
ノックもなしにスモーカーは侵入して来る。
あえての敬語で返しても気にも留めない。
書類に視線を落としたまま顔を上げる事が出来ないでいる。
少しだけペン先が震えているのは何故だろう。
きっと、スモーカーは気づいていない。
「まだ仕事してやがる」
「残念ねぇ、まだまだ終わらないわよ」
「出来ねぇ奴だな」
まだまだ終わらないから今日は無理だと言ったつもりが、
まるで伝わらず、スモーカーは座り込んでしまった。
こんな所を誰かに見られでもしたら十二分にマズイというのに、
それを知った上で仕出かすのだ。スモーカーという男は。
「…終わったのか?」
「…」
「あいつとは別れたのか、」
「…」
幾度か同じ業務に就き、少しだけ人となりを知る。
最初は互いにとっつき難そうな相手だと思っていた。
その頃既に婚約者のいたはスモーカーの思惑にさえ気づかず、
何となく結婚をするのだろうと思っていたし、
そうなれば海軍も辞める事になるのだろうとぼんやりと考えていただけだった。
しかし、まず相手方の両親が原因により、
まずは最初の延期、次に婚約者の浮気が発覚する。
浮気の発覚時点でとしては別れたかったのだが、
双方の両親がどうしてもと頼み込み、ズルズルと今に至っている。
正直、あの浮気発覚の瞬間から完全に心は離れてしまっているのだ。
どうやら相手方の家柄が妙にいいらしく、その辺りが破談を難しくさせているらしい。
心が離れたものだから仕事に勤しむのも無理はなく、
他に好きな人が出来る暇もなかった。昇進はした。
「何をそんなに躊躇ってやがるんだ」
「…」
浮気発覚からゴタゴタが過ぎた頃、
久々に顔を見せたスモーカーは開口一番に言った。
そんな男はやめて、俺の所に来ればいい。
唐突に出来事に口を開けないでいればもう遠慮はしないと告げられ面食らう。
どんな腹があるのかと距離を置き見守れど何も出て来ない。
「もう、いい加減に腹ァ決めたらどうだ」
「それ何よ、口説いてんの、それ」
「この俺がここまで辛抱してるんだぜ」
始末書は出来上がってしまった。只、紙面を見つめているだけだ。
あのが海軍近くのバーにて酒に溺れている光景を目の当たりにし、
やはり噂は本当だったのだと思った。
よくない噂なんてものは一気に回るもので、
どうにも婚約者に浮気をされたのだと皆、口々に噂し合っていたのだ。
正直、これでを頂けると思った。
仕事の後、独りで飲み明かすに声をかけた。
泥酔一歩手前の彼女は自分だと認識していたのだろうか。
よくない手段だとは分かっていて、そうして誘った。
少しだけ胸が痛んだような気がした。
自分と婚約者を天秤にかけているは好きになれず、
何故はっきりとした答えを出す事が出来ないのかと毎度詰め寄り、
どうにもどちらも信用出来ていないのだと知った。それでもだ。
それでも婚約中に浮気をするような野朗と一緒にするなと思いしぶとく心を狙った。
何もなしに信用してくれなんて言わねぇが、少なくとも野朗よりはマシだぜ。
「今日って金曜よね」
「生憎、曜日の概念はねぇんだ」
「休みの前に言わなきゃね」
そう言い少しだけ笑ったに視線を向け、それが答えでいいのかと呟いた。
煉さんへ。
クソほど遅れたリクエスト分です。本当にスイマセン。
スモーカー、というリクだったのですが凄い久しぶりに書いた…!
しかも、何かどういう内容なんだと。どうしたかったのかと。
こう、グイグイ来てるスモーカーを書こうと…したんです…
土日が休みの職業じゃないよね(海軍)という考えにて。
大人しくパラレルにした方がよかったでしょうか…
しかし、しかし。リクエストありがとうございました!