とべないとりはうそをつく

 

シャンクスの元を離れたは又、何となく大海原を彷徨ってみる事にした。
目的も行き先もないのだから彷徨うしかなくなる。
だから行く先を告げるも何もないのだ。
シャンクスと出会ったあの酒場から何となく船に乗り、そのまま『命喰い』はなりを潜めた。
シャンクスは何故海賊を狩るのかとに聞いた。
それに答える事が出来なかったは海賊船に同乗している以上、
海賊を狩るのはやめようと思った。何となくだ。


誘われるがまま船に乗り、あの日の鬼と言葉を交わす。
思惑に気づかなかったといえば嘘になる。
歳が離れていようが性別はそのままで、単なる男と女だ。
そんな事はあの島で身に染みたはずなのに。
それでも理解が、納得が出来ないでいた。









結局、行き先を告げないまま船を出たは大海原を彷徨っていた。
シャンクス達と一緒に行動をし、
その都度近隣の島へ足を運び初めて目にする光景に感嘆する。
見た事のない鳥や見た事のない果物。
シャンクス達と暮らしを共にし人と接する術を学んだからか
揉め事もそう起こらず、旅人として認定されていた。
穏やかな人々との接点はを少しだけ柔らかくする。


「しかし…」


寒い。
そう呟いたはチラホラと降り始めた雪を目にし
行く先を早々に決めようと辺りを見回した。
灰色の厚い雲は水平線まで続いているし、
この数日、急激に気温が下がってもいたのだ。
これは近々、雪が降るに違いない。
雪を初めて目にしたのもシャンクスの船でだ。
空から無数に降り注ぐ白い結晶を目の当たりにした時にはそれこそ驚き
(シャンクスはシャンクスで雪を知らないに驚いていたが)
手を伸ばし冷たさに又、驚いた。
しかし吹雪にも遭遇した為、厄介さも同時に知る事となり、
兎も角近隣の島に立ち寄ろうと思っていた。


一番近くにあった島へと近づき上陸すれば貧しい土地が広がっていた。
この寒さだ、無理もない。
湿った土を踏み先へ進めば丁度、雪が降り始め特有の強く冷たい風が吹き始めた。
こいつはまずいと、歩みを速め右手に見えた洞窟へ入ろうとした時だ。


「…誰?キャプテン?」
「…」
「あれ?キャプテンじゃない、女の子だ」


服を着た白熊がいた。
今まで結構な数の島に足を運び、様々な人種を目にしたつもりだったが、
人語を話す白熊に遭遇した例はなく困惑する。
目を離す事も出来ず、だからといって動く事も出来ない。衝撃だ。


「これからねぇ、又吹雪くから危ないよー?」
「何…?」
「キャプテンが言ってたから本当だよー」


言い終わった刹那、強い暴風が背を叩き
前のめりに倒れかけたを支えたのは例の白熊であり、
理解も納得も出来ずとも害はないと判断する。
いつしか洞窟の外は白い嵐が吹き荒れていた。
急激に冷え込む。凍てつく。
ここまでの寒波を体験した事のないは、
ある程度の防寒しかしていなかったものだからたまらない。
じきに冷えにより身体が震え始め止らなくなる。


「あれ?どうしたの?寒いの?」


急激な体温の低下により酷い貧血状態に陥った
返事さえ出来ず膝をついた
。強い吐き気が襲い目を開けていられなくなる。
これはまずい。何も、こんな所で。
白熊がどうやら顔を覗き込み何事かを呟いているようだが
ろくに聞こえもせず、意識ばかりが遠ざかった。









夢を見ていた。あの嫌な思い出の夢だ。
人買いの家から仕置きの為、
外に放り出され輩の襲撃に怯え過ごす夜の思い出。
カラスが鳴き、どこぞで叫ぶ女。
家の中からは売られる子の泣き叫ぶ声が漏れ、心休まる時がない。
そうして鬼。シャンクスの荒ぶる姿。
あの刃はこちらに向けられる事はなかったものの肉を裂き血を吸った。
次に訪れるのは人買いの婆を殺した自身の掌。
数え切れない程、命を奪いはしたものの最初の記憶は決して薄まらない。
後悔ではない。呪われてでもいるんだろう。
そう、きっと呪われて―――――


「何だ。目ぇ、覚めたのか」


最悪の夢から目覚めれば桃源郷というわけにもいかず、只見知らぬ部屋にいた。
指先の神経は若干鈍くなってはいたものの身体に異変は見られない。
視線を隣に移せば男がいた。椅子に座り本を読んでいる。
こちらに視線は寄越していない。


「…あんたは」
「低血糖に脳貧血。お前、そんな状態でよくこの島に来たな」
「えっ?」
「ベポに感謝しな、それと―――――」


男がようやくこちらに視線を寄越し笑った。
何となく起き上がろうと力を入れるがそこまで体力は回復していないようだ。
毛布の暖かさが嫌に近い。


「濡れた服は乾かしてる。心配するな、何もしちゃいないぜ」


起き上がっても俺は構わねぇが。
男の言葉の意味を考えるよりも先に
何も身につけていない自身に気づき言葉を失えば、
笑い声を上げながら男が部屋を出て行く。
言葉を繋げようとしたが身体もろくに動かない有様だ。
何も考えないよう毛布に包まり目を閉じた。









又だ。又、夢を見ていた。
シャンクスの背中、胸。あの男の言葉。
彼越しに見えた壁、天井。ファン。
顔に髪がかかる―――――


「!!」
「どうしたの!?あっ、裸じゃない!」
「うわ!?」


風邪をひいちゃう、と騒ぎながら白熊は部屋を出て行った。
先程の男の代わりに今度は白熊が椅子に座っていたらしい。
体力自体は完璧に回復したようで最悪の目覚めと共に
思わず起き上がってしまっていた。
毛布を身体に巻きつけベッドを降りる。
ここはどこなのか。余り思いたくはないが、
船の中に様子が似ており少しだけ嫌な予感がしている。
船という事は海賊か。


「あっ、ダメだよ!安静にしてないと!」
「白熊…」
「これ、キャプテンから借りてきたから」


白熊はそう言いトレーナーを押し付ける。
そうしてそのままをベッドに放り込み肩まできちんと毛布をかけた。
いや、しかし。幾度見てもこの不自然さにはなれない。
何故、人語を介す。


「あの、あんたは…」
「ねぇ、ねぇ。嫌いなものとかないよね?ちゃんとご飯は食べれるよね?」
「いや、ちょっと」
「もう少ししたらご飯の時間だから、その時に持ってくるから」
「人の話を―――――」


どうして自分を助けたのか、だとかここは一体どこなのか、だとかだ。
聞きたい事を全て聞けず、あの白熊は一人で話し慌しく部屋を出て行った。
取り残されたはもう一度起き上がり渡されたトレーナーを広げる。


「…最悪」


トレーナーの真ん中に堂々とプリントしてあるのは海賊のマークだ。
やはりここは海賊船の中で間違いないらしい。
これは、マズイ自体に陥った。
大人しく、それこそ風のように消え去らなければならない。
の事を知っている海賊はシャンクス達以外にはおらず、
その線でばれる事はないと思うが
何分、この部屋を見回せどの荷物は見当たらない。
あの中を調べられれば刀がまず出てくるだろうし、
そうなれば厄介事に巻き込まれるかも知れない。
命を助けてもらった以上、穏便に済ませたい。
試行錯誤していればドアが勢いよく開く。


「ねぇ、名前は!?」
「…
「ボクはベポ!助かってよかったねー」


ああ、あの白熊がベポだったのかと思うよりも先に、
ここを出て行くまで隠し通せるのかと思い気が滅入った。


ベポって喋り方がよく分かんないんですが、
もう何ていうかこれはベポの話だよね!
前回と話の温度差があり過ぎて逆に怖い。
ローは裸を見ても何も思わない風で。
きっと頭でセックスをする男だ(妄想甚だしい)
模倣坂心中 /pict by水没少女