それが苦しいと彼らは気付き、否定する

 

「…こいつは、何だ?」
「…が作ったシチューだよ、キャプテン…」
「…シチュー、だと…?」


「いや!確かに、得体の知れない物体が浮いてるし、
ホワイトシチューの癖に消し炭みたいな色をしてるし、
何なら固形物に近いけど」
「言い残す言葉はそれだけか、シャチ」
「ちょっ!ちょっと待ってキャプテン!!
これでもまだマシになったって言うか、
ていうか廃棄したはずなのに…!?」
「逆に感心したぜ、俺は…」


まったく何も出来ないに料理を教えろと指示したのはロー自身だ。
せめて女の作った料理が食べたいという、至極他愛もない動機だが、
まさかここまでモノにならないとは夢にも思わなかった。


キッチンを通りかかった際、何気に中を覗けば異臭が漂っており、
臭いの元を辿ればダストボックスから例の異臭は漂っていた。
恐る恐る蓋を開ければ上記の物体が目に入り、こいつは何だと手に取る。
まさか食い物だとは思わず、テーブルの上に置いた。


じっくり検証してみるかと思った矢先だ。
話し声が聞こえ、キッチンのドアが開いた。
まずベポと、そうしてシャチ、ペンギンと続く。
皆、ローと視線を合わせ、ゆっくりと物体Xへ視線を移した。


「製作者はどこにいるんだ」
「何か、用事があるって又、出て行ったよー」
「何?」


つい先日、買出しの為に近隣の島に立ち寄った。
が逃げ出すかと何気に見張っていたが、
そんな素振りは一切なく、考えすぎかと思っていた所だ。
がこの船に乗り込み、こいつら(ベポ等)と
急速に仲良くなった現実を過大評価し過ぎていたのだろうか。


「どの位前に出て行った」
「一時間くらい前ですけどね」
「…」


目前の物体Xの製造方法もまだ聞いていないわけだ。
だからといって追いかけ連れ戻す、だなんてやり方も何だか違う気がして
(そもそもこの島は小さい。下手に逃げ出すよりも、
もう少し大きな島につくまで、この船で動いた方が懸命だ)
少しばかり考えていれば、
心配しないでキャプテン。は戻って来るよ、
だなんてベポが言うものだから、
シチューの皮を被った悪魔を投げつけた。









小さな丘から大海原を見つめる。
先日、買出しの際この場所を見つけたのだ。
廃墟と化した教会がポツリと腐り行くこの場所。似ていると思った。
どうにもロー達と一緒に過ごし始め、昔の事を思い出すようになった。
あの悪夢のような島と散った仲間を思い出す。


それでも、以前のような思い出し方ではなく(以前は悪夢と同時に思い出していた)
ふと脳裏を過ぎるような、まるで風化した記憶のような思い出し方だ。
心が強張らなくなったと感じた。
それと同時にシャンクスの存在さえ薄くなり、その点にだけ危機感を感じる。
彼は今、何をどう思っているのだろう。


「…死ぬ気か?」
「いや」
「まぁ、お前は能力者じゃあないからな。落ちても死にはしねぇか」


草を踏む音が聞こえ、続けてローの声が聞こえた。
そもそも約束一つ出来ないのだから、逃げ出すと思われても仕方がない。
そういえばシャンクスも同じように背後から声をかけてきていた。


「捜しに来たのか、ロー」
「まぁな」
「仲間でもないよ、あたしは」
「…知ってるぜ」
「なぁ、あたしは」
「あいつらがちゃんとしたシチューを作って待ってる」
「…」
「こんな場所で、物思いに耽ってる場合じゃねぇよ」


何を告げようとしたのか。何を知って欲しい、何かを分かって欲しいのか。
そんな内情をローの知らせ、どうしたい。
シャンクスとの関係を有りのまま伝えるつもりは毛頭なく、
それなのに何かを伝えたくて言葉を発したが選べず、潮風に持ち去られる。


「お前、何か言いかけて―――――」
「早く戻るんだろ」
「おい、
「穏やかでいい島だな、ここは」


似た風景だが血の臭いは漂わず、やはり思い出は思い出だと思う。
一度、大きく背伸びをしたら、
あの物体Xはどうやって作ったんだと前触れもなく聞くものだから、
黙ったまま船へ向かった。









「―――――この娘ねぇ…」
「あぁ、見てないか」
「何だい、あんたのコレかい」
「余計な口は挟まねぇ方が利口だぜ」
「あんた等を敵に回すつもりは毛頭ねぇよ。一寸待ちな、聞いてくらァ」


達が出航した三日後にこの島を訪れたシャンクス達は、
手近な店に立ち入り、人捜しをしていると告げた。
小さなこの島は訪れる人こそ少ないが、
海域の事情通が息を潜める場所にもなっている。
は戻らず、いよいよシャンクスが腰を上げた。
もう引き返す事は出来ないと分かっている。


「…そうか、分かった。悪ぃな」
「又、遊びに来てくれよ」
「あァ」


すれ違い様、見つけたと呟いたシャンクスは笑っていたように思える。
まるで鬼ごっこだ。ガキの遊びの延長。
問題は、演者が大人で、遊びの域では収まらない事だ。
そうして、シャンクス自身に自覚がない事。


普段通り、飄々とした様子で
船に戻ったシャンクスは舳先へ向かい、航路を見つめた。
逃げ出した鳥を捕まえる事が出来ると思っているのは自分だけだ。
それが欺瞞だとは少しも思っていなかった。



相変わらず、久々な更新になるわけなんですが、
何だ。この隙間話感は・・・。
前回、ローの出番が一切なかったもので、
今回は主にローでやってみました。話進まなかったね。
シャンクスは舳先で風を受けているイメージ。

模倣坂心中 /pict by水没少女