それでもぼくは残酷な言葉を紡ぎ出す

 

担ぎ上げ船へ戻ったシャンクスの態度は普段と何ら変わらなかった。
先ほどの慟哭がまるで嘘のように振る舞い、船を出させる。
今日は宴だな。
そう呟きを甲板におろしたシャンクスは、ベン達の方へ向かった。


シャンクスから解放され、ようやく呼吸を自覚出来たが指先は未だ震える。
ゆっくりと動き出す船の上、気づけば振り返っていた。
だんだんと遠く小さくなってゆく彼の船を見ている。
他にやり方があっただろうかと考えた。
こんな結末を迎えないやり方があっただろうか。


「…どうした?
「…」
「今生の別れじゃねぇんだ、お前の友達だろう?又、会えるさ」


この広い海原で又会える確率はどのくらいなのだろうか。
白々しいシャンクスの言葉を上の空で聞いていれば、
ロー達の船が海深く沈んでゆく。
その瞬間、止め処なく悲しみが押し寄せ、
胸が締め付けられたが泣くわけにはいかない。
まだ船は見えているのだ。まだ、泣けない。


何れにしてもロー達を欺いた事になる以上、二度と会う事はないだろう。
こちらが幾ら望んでいても、相手が望まないのならば意味がない。
あの島を出て、初めて出来た友達だったのに。


「あんたは、嘘吐きだ」


辛うじて吐き出せた言葉はそれで、
のそんな言葉を聞いたシャンクスは返す言葉もなく、
やれやれと溜息を吐く。
泣き顔を見せないよう駆け出したは自室へと向かったのだろう。


「…嘘吐きだって、言われちまった」
「そりゃ、違いねぇ」


あんなに白々しい慰めをするからだと言われ、確かにそうだと自重する。
がどういう経緯であの船にいたのかは分からない。
恐らく、これから先、聞く事もない。
がここにいる以上、特に興味のない事柄だからだ。


それにしても―――――
ふと思う。
仲間なら俺達がいる。だから奴らはお前の仲間にはならねぇ。
だったら友達は必要か。その役割なら俺が果たすし、それ以上の役割も俺が果たす。
そもそも、それまでずっとは一人で生きてきたのではないか。


「なぁ、俺は間違ってっか?」
「何を、今更…」
「いやいや、俺ァあいつの為を思ってだな」
「そりゃ、ないぜ」
「…!!」


「あんたは昔っから我侭だからな。に関しては完全にそうだ。『命喰い』として一応は名の売れてたあいつに興味を持っちまったから、ここに留めた。嫌われたくねぇもんだから、あいつの意思を尊重した風に、仲間にはしてないまでもだ。俺としてはもう少し、あいつに自由をくれてやってもいいような気はしてるが―――――」
「俺は、寝る!」
「好きなら好きって言っちまった方がいい。あいつはまるで、何も分かっちゃいねぇぜ」


痛いところを突かれればすぐに不貞腐れやがると皆で笑う。
身体ばかりが成長したのような女を愛した時点で、
関係が絡まる事は分かっていたのだ。
まあ、それも当人達だけで、傍から見ればすぐに解ける。


わざわざ解いてやる優しさは持ち合わせていなかったが、
つい、うっかり口を滑らせてしまった。
こんな茶番に付き合わされてしまった以上、
傍観しているわけにはいかなくなったから。


シャンクスがをものに出来るかを皆で賭けていれば、
眠りにいったはずのシャンクスが、
俺で遊ぶなと噛み付いてきたものだから、
又、皆で笑った。














船内は異常なほど静まり返っていた。
誰一人口を開く事無く、まるできっかけを待っているようだった。
先ほどの衝撃で肋骨が折れたらしく、
ベポの肩を借りたローは自らの手できつく包帯を巻いた。


あれが四皇の力だ。お遊び程度の力で肋骨さえ折る。
『命喰い』として名を馳せたでさえ赤子のように扱い、重い覇気を残す。
力だけが全だと言われる海上でのルールを体現した男―――――


何故、そんな男とが一緒にいるのか。
何故、赤髪はを迎えに来たのか。
骨の痛みと共に襲いかかる疑問だ。
赤髪海賊団に女のクルーがいると聞いた事はない。
そもそもは『命喰い』だ。
では、何故。


自分を守ったの眼差しが脳裏に焼きついている。
もう、戻る事は出来ないと告げる眼差しを。
何一つ理由が分からず、静まり返った船内を見渡す。
ベポ達は言葉を失い、見るも無残に落ち込んだ様子で各々の部屋へ向かった。
これまでと同じ状態に戻っただけなのに何故ここまで静まり返る。


患部に触れれば熱が伝わり、
一気に襲いかかる疲労の理由があの覇気だったとしてもだ。
まだ頭の中の整理がついておらず、目を閉じた。



前回よりも更新の間は短くなったような
そんな気がしてるんですが気のせいでしょうか。
この、温度差!(シャンクス達とロー達)
まあ、ローにしてみれば
交通事故みたいな展開ですので、
そりゃあさぞかし驚いただろうよ。

模倣坂心中 /pict by水没少女