そうして野獣は放たれた





どんな因果かルーキーばかりが集った酒場には殺気が漂っている。
どいつもこいつも血の気が多すぎるんだと呟いたのはドレークだったか。
まあ、何れにしてもこの酒場を壊してまで殺りあおうとする馬鹿はいないだろうし
(ここのマスターは元某有名海賊団のクルーだった)
殺気なんて気にせずに飲んで喰えばいいだけの話だ。


一番最後にこの店を訪れた は、
店内を見渡し一瞬踵を返しかけたがどうにか踏み止まった。
しかし、こんな所じゃあ美味い酒も美味く飲めはしないんじゃないか。
グルリと店内を一望、どのスペースに位置取るかを考える。


まず目に付いたのは派手に喰い散らかしているジュエリー・ボニー。
お前、店の真ん中で何やってんだよと思いもしたが、
まだ食い物に意識は集中しているらしい。
気づかれようものなら絶対にこっちに来いと言われ、
尚且つ、同じ量を喰わされかねない。あそこはパスだ。


その奥は怪僧ウルージ御一行。
又、何かと説教を喰らいかねない。
そもそもあんな破戒僧に説教される筋合いなんてないのだ。あそこもパス。
腹は減ったし、喉も渇いた。
クソ、こんな事なら我先に来ておくべきだった。


その隣、隣は―――――バジル・ホーキンス。最悪だ。
こちらが頼みもしていないのに、勝手に占われる後味の悪さは他に類を見ない。
そもそもこちとら占いなんて信じちゃいないというのに、
今日は西の方角に気をつけろ、だのその色は凶事を招くだのと
煩い事を言われるに違いない。過去に何度か言われた事があるのだから間違いない。
よって、あそこもパス。


反対側はスクラッチ・アプーか。
面白い奴なんだけど、正直、うるさいんだよな…。
酒さえ入ってれば大丈夫なんだけど、まだ、無理。
そんな事を考えていれば、でかい声で名前を呼ばれ、
否応なしに注目を浴びる事となった。最悪だ。
わざとなのか素なのか、本当に空気の読めないアプーめ…。


条件反射で反対側を向けばカポネ・ベッジ御一行と目が合い、何だかどうでもよくなった。
こんな事をしていたら座れる場所がなくなってしまう。
考える事を止めた は仲間を連れ、入り口付近のカウンターに腰掛けた。
そうだ、最初からカウンターに座ればよかったわけだ。
まずジョッキを頼み、ややこしい店に入ってしまったと溜息を―――――


「こいつァ珍しい顔じゃねぇか」
「…(最悪だ)」
「女ばっかの海賊団てのは、海軍も甘ぇのか、おい」
「うるさいんだよ、ユースタス」


隣にどっかりと腰を下ろしたのはユースタス・キッド。悪名高いあの男だ。
まあ、この男が幾ら悪名高かろうが海賊は海賊、 達も似たような事をしている。
こいつらがいるから、こんな場所に顔を見せたくなかったんだよ。


「手前のトコの仲間は、使えんのかよ、
「…(相手にしない、相手にしない)」
「女、相手ってのは気ぃ遣っちまうぜ、なぁ、キラー」
「違いない」
「…(冷静に、冷静に)」
「まァな、女だらけってのは使えるだろうぜ」
「…(この声は)」


の反対側に座り込んだのはトラファルガー・ローだ。
最悪の面子に挟まれてしまったと思いながら、
こいつらがここに来たんだったら
テーブル席が空いたんじゃないかと視線を上げる。


「女の使い道ってのは、色々あるからな」
「…トラファルガー」
「一度、手合わせ願いてぇもんだ」


ローがそう言い、皆笑う。
最悪だ。最悪の展開だ。
一足先にこいつらのいたテーブルへクルーを向かわせ、ジョッキを煽った。
こんな所で揉め事を起すわけにはいかない。
しかも、こんなに詰まらない理由で。
馬鹿げている。そう、余りに馬鹿げて―――――


「口の減らない男に限って大した事ないのよね」
「あァ!?」
「あんた達相手に、股も開きゃしないってのよ」


はい、無理でした。知らない間に口が滑ってました。しかも駄々滑り。
ジョッキを私マスターも流石の苦笑いを浮かべ、事の成り行きを見守っている。
横目でクルーの様子を伺えば、又始まったと言わんばかりに笑いを堪えていた。
もう、これは仕方ない。
どの道、こいつらと顔を会わせれば毎度こうなっているのだ。


「何だ、 手前。殺ろうってのか?あァ?」
「気をつけな、 。どの、ヤる、か分かったモンじゃねぇぜ」
「何だ、手前、トラファルガー」
「あァ?」
「マスター、おかわり」


そうして最終的には を挟み、キッドとローのいがみ合いになる。
こいつら結構、歳は若いはずなのに、
言っている事は完全におっさんじゃないかと思いながら、
はジョッキを空ける。
仮面をつけた男、キラーの表情は分からないが恐らく呆れているんだろう。
どんどんとジョッキを空けていく男達の酔いとテンションは徐々にヒートアップ。
その隙に抜け出す。


「…相変わらずだな」
「あたしじゃなくて、あいつらが、でしょ。ドレーク」
「まったく、騒々しい奴らだ」


店の片隅で静かに飲んでいたX・ドレークの隣で、カウンターの騒動を見ていれば、
随分時間が経過した後で の不在に気づいた例の二人が
ふざけるなと叫びながら噛み付いてくる。
やれやれ、又かと半ば呆れ気味のドレークは耳を貸さず、
も右に倣えと無視を決め込むがそこは無理。
又もや言い合いに発展した三人にようやく気づいたボニーが、
あいつらよく厭きねぇな、と呟いた。
SS





ルーキーオール?駄目?名前だけは全員出してみました。
そしてまさかのドレーク落ち、という。書いた事ない癖に。
まあ、キッドとローのセクハラ発言を書きたかっただけです。
わ、若いのにおっさんじゃない…!?という驚きを欲しただけです。
まあ、普通に考えてこんなに仲良く話なんかしないよね!
主人公は女だらけの海賊団という事で。
2009/12/24

D.C./水珠