首輪をつけたご主人様





…手前…」
「…!!」
「こいつァ、一体どういう…!!」
「…!!!(言葉になりません!!)」
「どういう事か説明しろぃ!!」


マルコの怒声が響き渡る。
寝起きのマルコは常々、余り機嫌は良くないものの、今日は最悪らしい。
まあ、それも仕方のない事。原因は 。怒鳴られたのも
そうして当の はといえば、顔面蒼白のまま口元を手で押さえている。
押さえている理由は明白、笑ってしまいそうだからだ。
激怒している相手を目の前に爆笑するわけにもいかない。


ほんの出来心だった。他愛もない悪戯だ。
常々、何をしてもマルコに勝つ事の出来ない が思いついた、罪のない悪戯。
それがまさか、こんな事になるとは―――――


〜〜〜!!!」
「かっ…!」


可愛い、マルコ…。
どうにか吐き出した言葉は、それで、マルコは更に逆上。
普段見られない彼を見る事は出来た。









何か目ぼしいものはないかと、街をふらついていた時だ。
路地の奥に小さな露店を見つけた。
紫色の布がかかった怪しげな店だった。
中を覗けども何の店なのかが分からず、
入るかどうか躊躇していれば店の奥から老人が姿を現した。
老人は言った。君は今、敵わない相手がいるね?
どういう意味かは分からなかったが、何となく頷いた。


老人曰く、この店は【魔法の店】であり、不可能を可能にするらしい。
信じたわけではなく、面白そうだから立ち寄った。
そこで購入したものは幾つかのお香(美容にいいヤツだとか、運気が上がるヤツだ)と
敵わない相手に対する道具―――――


「おいおいマルコ…そりゃあ何かのプレイか何かか?」
「エ〜〜〜ス…!!」
「面白ぇな、それ」
「エース!!余計な事言わないでよ!!」
「で、だ。こりゃあ何だ、
「首輪、です…」
「そんなもんは見りゃあ分かるよぃ!!」


あの老人は言った。
お嬢ちゃんが敵わない相手にこの首輪を付ければ、
丸一日は完全に立場が逆転するよ。
嘘吐きが!


「凄く…可愛いよ?マルコ…」
「…!!」


このままでは埒があかないと思ったらしいマルコは、 を抱え手近な倉庫に入った。
この姿を目撃されれば(エースがいい例だ)爆笑される事請け合い、
の口からどういう事なのか理由を聞くまでは一目に触れたくない。
それなのに はといえばマルコの顔と首輪を交互に眺め、笑いを堪えている。
麦の入った袋に を乗せ対面したら、
我慢が出来なくなったのか顔を逸らし が笑った。
元はといえばお前のせいだろうがよぃ!


「あのですね…」
「…はァ!?」


首輪が何故マルコの首を飾っているのか、
その理由を聞いたマルコは余りの下らなさに
危うく卒倒しかけたが、どうにか堪えた。
だって、いつもマルコにしてやられてるから、一回くらい勝ちたかったの。


「で、んな胡散臭ぇじいさんを信用したってのかよぃ」
「信用した、って言うか…けど全然マルコ、変わってないし」
「首輪一つで変わってたまるかよぃ!」
「むしろ、酷くなってるし…可愛いのは首輪だけだよね」
、お前…ちっとも反省してねぇだろ」


目が覚めた瞬間、首周りに違和感があり、触れてみればこの有様だ。
咄嗟に が何かを仕出かしたのだろうと予想はついたが、
何故首輪なのかが理解出来なかった。
そもそも、いつも勝てないと は言っているが、
言う事成す事、スキだらけな が悪い。
突っ込まなくてもいい所を突っ込まなければならない、
こちらの身にもなれという話だ。


「…お前はどうしたいんだよぃ」
「えぇ?」
「俺をどうしたいんだよぃ」


樽に腰掛け、頬杖をついたマルコは を見下ろしている。
ほとほと困った様子でだ。
よくよく考えれば、こうやって頼み込むマルコを見るのは初めてかも知れない。
いつだってマルコの思い通りに動いていたような気がしていた。
頼み事をするのは ばかりだったような、気が。


「あっ」


どれだけ力を入れても微動だにしなかった首輪がスルリと外れ、床に落ちた。









「いやぁ、今日は面白いモンが見れて得したぜ」
「うるせぇよぃ、エース」
「けどよぉ。」


どっちかってぇと、お前の方が の言う事、いつも聞いてんのにな。
エースは言う。
マルコは特に答えず、濃いコーヒーを一口。
今日は朝から目が覚めたような醒めていないような曖昧な感覚だった。


「あ、あの首輪どうすんだ?」
「あぁ…まあ、一回は につけるよぃ」
「エロいな」
「だろ」


下らない話をしながら、いつものように笑った。








マルコに首輪をつけてみないかい?(何の誘い…?)
いや、誰にしようか迷ったんですが、マルコで。
正直、マルコか青キジかで迷った…!
2009/12/24

D.C./水珠