悲劇の数だけ置いてゆけ





開ける事の出来ない窓の前に立ち、轟々と唸る海原を眺めていた。
ベッドではスモーカーが寝ている。寝ているはずだ。
眠りが深い為、朝まで起きないあの男はどんな夢を見ているのだろう。
こんなに狭い部屋で。


今日は話をする予定だったのに、
やる事だけやってあの男はとっとと眠ってしまった。まあ、いつもの事だ。
ねえ、スモーカー。あたし達はもう終わっちゃうのかしら。
顔を合わせる度に浮かぶ言葉だ。


生き方がまったく違ってしまったものだから、だからだ。
もう交じり合う事はない。
互いの為に、もうはっきりと関係を終わらせてしまうべきだと
分かってはいるが出来ないのだ。
何故だかスモーカーもそれを匂わす言葉を告げず、
だらだらと惰性に飲み込まれてしまった。
昔みたいに何のしがらみもない状態で楽しく生きていければいいのに。
しかし、今となってはそれも無理な話だ。


海軍と海賊。それだけで十二分なしがらみは構成される。
痛手を受け、一時は戦線離脱したものの、
単に活躍の場を表から裏に変えただけに過ぎない。
海賊でも海軍でも、ある程度の位置に達せば の名を知る事は必至だ。
だからスモーカーも知っているはず。


手を伸ばせども誰も助けてはくれなかったが、それも昔の話。
現に今、助けの手を伸ばされても がそれを掴む事はない。
ああ、それよりも誰かの手が届くような所にいないのだ。
這い上がることの出来ない所にまで堕ちている。


「少しは眠れよ」
「…起きてたの」
「覚めたんだよ」


しゃがれた声で小さく喋るスモーカーは随分眠たいのだろうと思う。
うつ伏せのまま力なく左腕を上げ、おいでおいでと を招く。
その腕も声も、全部が欲しくてこうなってしまった。
全部を独り占めしたくて。


「ねぇ、スモーカー」
「何だよ」
「あたし…」


の重さでベッドが軋み嫌な音をたてた。
スモーカーの背に被さり言いかけた刹那、
俺とお前はこの部屋でしか会わねぇだろうが。
そう言うものだから、この狭い部屋が余計、窮屈に思え身を離す。
どういう事なのと聞く事も出来ない の下、
スモーカーの眼差しは荒ぶる波ばかり見ていた。







アホっぽい話ばかり書いてた気がするのでシリアスめを。
まあ、通常の話ですけどね…。暗い話っていうのは。
この部屋に悲しみを全て置いて行く、という話です。
不倫とかじゃないのに不倫とかみたいな感じに!
2009/12/24

D.C./水珠