知らないままでいてくれればいい





は常に笑顔なのに、
どうして現実の は泣いてばかりいるのだろうと、そんな事を考えていた。
が泣いている理由は自分だと知っていてだ。
彼女は大体、夜更けの時間帯に姿を現す。
現実と夢との境界線が酷く曖昧になった辺りに。


ねぇ、マルコ。
そう囁き、こちらに腕を伸ばし、そうして掴めばすり抜ける。繰り返し。
私はあなたを愛しているわと笑い、両腕を大きく広げる。掴めはしないのに。
それでも、もう慣れた。
触れる事さえ叶わない を目前に、
夢の中なのにそれが夢だと、又同じ事の繰り返しを続けるだけと気づける程に。
それなのに、毎朝のそれを心待ちにしている自身にも気づいている。
夢の中でだけでも彼女が笑んでくれるのならば、もうそれだけで構わない。
それだけで心は救われる。


彼女が笑んだら次はマルコが 、そう名を呼び視線を交わす。
出会った頃のように、少しだけの距離感を保ったまま、木漏れ日の中で。
命ばかりは奪われないでと毎日、
いるのかどうかさえ分からない神に祈らせる生活を悔やんだだけだ。
絶対なんて有り得ないと知っているから、
明確な答えを返す事も出来ず刹那に生きていく選択肢だけを答とした。


幸せに出来る自信こそあれど、そこに確信が持てなかったのだ。
こんな生き方で は幸せなのだろうか。
浮き草のような生き様を押し付けなくとも
愛している故に は断らず、だから踏みとどまった。
心の底から誰かを愛するという事はどういう事なのか。
最善策を掲示する事なのか、
感情に揺さぶられ気持ちのいい結末を迎える事なのか。
分からない。分からなかった。今でも分かっていない。


だから、 を嫌いになっただとか厭きただとか、
他に気持ちを持っていかれただとか、そういう事ではないのだ。
ずっと頭の中に はいて、それでも触れる事が出来ないだけ。
彼女の事を思って、なんて体のいい言い訳だ。
彼女を不幸にしたくなくて、幸せに出来ない未来が怖ろしくて逃げ出しただけだ。
大事なものになればなるほど臆病さは増し、この手で壊してしまう可能性に怯えた。
がどれだけ、そんな事は決してないと誓っても。
俺はこういう人間だからよぃ、
壊しちゃいけねェものの扱い方なんて知らねェんだよぃ。
だから。


強く抱き締め、こんなしがらみなんて全て捨てて、
もうそこには とマルコしかいなくて。他には何も要らないから。
けど 、俺がこんな思いを抱いてるなんてお前は知らないでいいよぃ。
知らないままでいてくれればいい。







比較的切なめのマルコ。
誰かを愛するという事はどういう事なのか。
今年の傾向がこんな感じだというわけではない予定です。
2010/1/1

AnneDoll/水珠