雑念の行き場








「何で毎度いねぇんだ、あいつは」
「そうイライラするな、キッド。いつもの事じゃないか」
「別にイライラなんかしてねぇだろうが」


そう言い終わる前に壁を蹴り上げる。
今更問題にする事もないのだが、
は船長命令を一切、それこそ何一つ聞かない。面白いほど聞かない。


今日だってそうだ。
大事な用件があるからと一週間ほど前から何度も何度も、
がうるさい、だとかしつこい、だとか
逆切れをするまで言い続けたというのに、
どうしていざその時になれば姿を眩ましているのか。
確かに、大事な用件の中身は何なんだというの質問には
何一つ返答を返していないが(ていうか、そこは流石に察せよバカ女)
何でもかんでもスピーカー宜しく口を開くような男ではないわけで、
破られるのではないかと薄々、察しは付いていたが可能性にかけてみたわけだ。


それにしたって、あのバカはこちらの事を頭と呼びはするものの
(それよりもキッドと呼ぶ方が圧倒的に多くはあるが)
どういう位置づけをしているのだろうか。
まだ仲間になる前の方がマシだったような気がする。
仲間になる前というか、こう、触れ合う前。
互いの間に少しだけの微妙な距離感が存在し、駆け引きの繰り返し。
どうにかその距離を縮めたく心が翻弄されていたあの頃。


誰かに取られるのも許せず、だからといって相手は(この場合、だ)
生き物だから心まではこちらで操作する事も出来ない。
四苦八苦した上、なるようになったのだと思っていたが、
彼女はどう思っているのだろうか。


「しかし、アレだな」
「何、笑ってんだよ。キラー」
「いや。振り回されてるなと思ってな」
「あァ!?」
「どう考えても振り回されてるだろう、お前は」


呆れたようにキラーは言うわけで、
確かに我ながら随分振り回されてしまったものだと分かってはいる。
分かってはいるが、認めたくない。いや、まだ認められない。
この俺が、たかが女一人に振り回されるだなんて、ありえてたまるか。


「!!」
「ちょっとー!!今日、すっごい暑いんだけ」
「大丈夫か?キッド」
「えっ、何?あんた、ドアの前で何してるのよ。あ、ただいま。キラー」
「ああ、おかえり」


勢いよくドアを開けたは何食わぬ顔で話を続けている。
いっその事、早々と見切りをつけてやろうかとも思うのだが、
何分心を持ち出されているのはこちらの方らしく、踏ん切りがつかないでいる。
いや、きっと一生つける事は出来ない。


「…おい、どこに行ってやがった」
「え?買い物だけど」
「俺ァ、手前に言っちゃいなかったか?おい…」
「何の話をしてるのよ、キッド」
「用があるから、部屋で待ってろって言ってただろうが!」


何をそんなに怒っているのと聞き返すは、
きっと何も思っていなくて、
何となく空気を察し立ち去ろうとしているキラーを引き止めている。


いや、お前もお前で空気なんざ読んでるんじゃねェよ、キラー!
けど、そのお前の気遣いを、
ちょっとでもいいからこのバカ()に分けてやってくれ。


必死に部屋を出て行こうとしているキラーを見ながら、
大きな、それこそ大きな溜息を吐き出したキッドは、ゆっくりとに近づく。
そうして、そのままの頭に鉄槌を喰らわせた。
(少しは人のいう事を聞け)




キラーを書きたかっただけなんじゃないのかと
仮に問われればイエスと答えざるを得ない。
そういえばこの話、LEVEL5を初めて、
何と記念すべき100話目なんですよ。
という、どうでもいいトリビア(?)でした

2010/8/25

蝉丸/水珠