伝えることの難しさ





ベッド上で目覚め、
こんな調子じゃあ枯れちまうぜとぼやきながら、
既に温くなったシーツを撫でた。


自らタブーを破った嫌悪感はまだ襲い掛かっていない。
シャワーでも浴び、目が覚めた時点でそれは襲ってくるのだろうと思う。


せめてもの防御で船内だけは避け、
近場のモーテルにしけこみはしたものの、
朝方に二人の姿が見えないとなれば誰もが何となく察する。
だからはとっくに姿を消しているわけだ。
そこまで読めるが何となく気持ちが落ち着かない。


やる事なんてたった一つのこんな室内に一人取り残されれば、
こう、言葉に出来ない気持ちの悪い感情が押し寄せてくる。
どう考えても一人で出て行くような場所じゃないだろう
と思いながら起き上がり、脱ぎ散らかした服に手を伸ばした。


互いが思いを飲み込み、
まるでガキの遊びみたいに駆け引きを繰り返し楽しんでいたのに、
何故昨晩に限って歯止めが効かなかったのだろう。
服を手に取り、もう一度置き、素っ裸のままシャワーへ向かう。


昨晩のはどんな反応を示していたのか。
思い出せない理由はやはり酒か。
馬鹿な真似をしてしまっただろうか。何もかもが分からない。
だから、がここにいない現状が不安になる。


情事後の朝は白々しいもので、
その白々しさを埋める為に言葉を交わし、そうしてその先を考える。
その全てを放棄したという事は、
やはり仲間の枠から抜け出すつもりがなかったという事だろうか。


全てが想像でしかなく、それなのにそんな想像をしていれば
自らが受け取りたい答が現れ、正直なところ辟易とした。














船へ戻れば、皆がどこに行っていたんだと聞いて来るもので、
何となくそれなりの返事を返しながらの姿を捜した。
は平然と洗濯なんてしており、
昨晩の出来事はやはり夢の類だったのではないかと思う。


「よぉ」
「遅かったのね、キッド」
「何で先に帰ったんだよ、お前」
「えぇ?怪しまれるでしょう」
「まァな」


そのまま座り込み、会話を続けた。


「昨晩の事だが、」
「いいから」
「あ?」
「互いに同意の上だったし、楽しんだし」
「おい」


少しだけ声が大きかったかも知れない。
の手が止まり、大きな溜息が続いた。
やっちまった事を後悔なんざしねェが、なかった事にもしねェぞ俺ァ。
それがどういう意味を持つのかは知らず、
それでもなかった事にしようとしていたが許せなかった。
何故か。


「大きな声、出さないでよ。キッド」
「…悪ィ」
「あたしだって、凄く嫌だったんだから」
「…」
「一人で部屋を出る時とか、泣きそうだったんだから」


互いに妙な意地なんか張らず、好きだとか嫌いだとか、
そんな話の出来る関係になれればよかったものの、
色んなしがらみが邪魔をし、そこまで素直にはなれない。
だから、せめてこの局面だけは守りたく、
の名を呼び腕を引いた。








(しかも、後から聞いた話によりゃあ、キラー達は全部知ってたらしい。
皆、一向に進展のねェ俺とを見ながらヤキモキしていたんだと。
余計なお世話だ。
が気を利かせ、先に船へ戻って来た時に至っては、
何か事が起きたんじゃねェかと気が気じゃなかったらしい。
あえて、皆に知らしめる為にの手を引いたってのに、
何を今更、洗濯場でいちゃついているんだ。そう言われ驚いた。)





キッド・フェスティバルは続くよどこまでも。
事後キッドです。後悔とかしないぜ。
そういえば、今日何となく気づいたんですが、
うちのサイトの主人公達はタメ口主流。
け、敬語とか使えてねええええええ。
2010/9/14

AnneDoll/水珠