ぼくらのかなしみのもとのかたち





何故だか、どこかで絶対に
こちらの動向を伺っている海軍の目を掻い潜る。
会いたい時に会えないだなんて、
まるでロミオとジュリエットみたいじゃないかと
口走ったシャンクスに対し、
何を馬鹿な事を言っているんだと答えたは、
行き先も告げずによく消える。
約束なんてしない、あんたとは特にしない。
そういう女だ。


「…休暇中か?」
「嫌だ。あんた、どうしてここに」
「お前のいる場所なんてすぐに分かるさ」


ヤシの木の生い茂った原生林。反対側にはビーチが広がっている。
景観の素晴らしいこの島に何故人々が近寄らないのかというと、
周辺の海域に力を持った海賊達が屯しているからだ。
そうして、そこを突破したは一人、
悠々とバカンスを楽しんでいる。


「俺ァ、言おう言おうと思っていたんだが」
「ちょっと、触らないでよ」
「いつもの格好より、こっちの方がずっといい」
「聞いてるの、シャンクス」
「お前の肌が見えてる方がいいな」
「ちょっと!」


背後から抱き締めかけ、手酷く払われる。慣れた対応だ。
船の上では古めかしいローブを羽織り、
長く豊かな髪を束ね纏めている彼女の姿とは思えない。
水浴びでもして遊んできたのだろうか。


薄いグリーンのビキニに今しがた巻かれたパレオ。
夜風に靡く髪。夜光虫達が淡く光っていた。


「あんたが会いに来たら、余計なオマケも付いて来るのよ」
「いいじゃねェか。見せ付けてやれ」
「冗談止してよ」


の歩みは、バンガローに向かっている。
そこで、朝日を迎えるのも悪くない。
彼女が迎え入れれば、の話だ。


足元は砂に埋まっている。
草の間から見える夜の海。空気を読めない海軍の船。


「どうしてついて来るの」
「駄目か?」
「駄目よ」
「どうして」
「あんたと傷の舐めあいなんて願い下げだわ」


長い間この海で生き、そうして携えた悲しみを分かち合う。
そんなものは願い下げだと彼女は言っている。
そんな真似はしないと言っても同じだろう。
身を重ね、感覚ばかりを求めても、何れ確信には触れてしまう。


歳を重ねてしまったというところだろう。
何も考えず何も感じず、身を重ねる事は出来なくなってしまった。
良いのか悪いのかは分からないが、淋しいとは思う。


「淋しい事、言うなよ。
「…」
「俺とお前の仲じゃねェか」
「しぶとい男よね、あんた」
「お前もそうじゃねェか」


この海に出た時から、最後には一人で死ぬのだと分かっていたはずだ。
それなのにどうして暖かさを求める。
バンガローに辿り着けば、真っ黒な海が広がり、
こちらの様子を伺う船の明かりがチカチカと光っていた。


見せ付けるように抱き締め、
口付けを強請れば溜息を吐いたが顔を上げる。
射抜くような眼差しに背筋が凍り、それが堪らないんだと囁いた。





終わりどころが分からなくなった
シャンクス(どちらかといえば暗め)
ぼんやりとした話を書きたくて…
2010/9/22

AnneDoll/水珠