言葉のない約束





元々、純朴で静かな街を海賊共が荒らしまわっていると、
よく聞く話を耳にし、ゆっくりと腰をあげ、
同じ事を繰り返す為に立ち上がったのが丁度、三時間前の出来事だ。
顔を見れば、賞金の額ばかりが高い(これも事後に分かった事だ)輩だったもので、
ジジイ達は一体何を考えてやがるんだと苛立ちながら派兵先に戻る。
本部から派兵されたはいいものの、正直な所、退屈を持て余しているのだ。


手ごたえのある海賊は出てこないし、捕まえれば捕まえたで
面倒な書類仕事をしなければならなくなる。
事務仕事は海軍の事務に任せろよと何度も言っているのだが、
現場を知った人間でないと報告書は書けない、だとか
それを含めてまでが仕事だとか、
それこそ面倒な話をされるもので仕方がないと諦めた。


海賊を捕まえるのはいいが、事後処理が増えるのは勘弁だ。
そんな事を、山積みになった書類を前に思っていた。
そんな時だ。ふと視線を感じた。顔を上げる。


「労わりにでも来たのか?なぁ、おい」
「どうしてあたしが」
「コーヒーでも淹れてくれよ」
「お断りしますけど」


こんな辺境の地への派兵をどうして受けたのか。
普通ならば決して受けない仕事だ。
似たような内容の仕事は他にもあるのだし、
もっと力の強い海賊達が出てくる海域もある。


それなのに、ここへ来た理由はこの女だ。
この地域を取り締まる海軍准将。
可愛気のない口を叩きながらも
コーヒーメーカーのスイッチを入れている彼女に会いたいが為、
スモーカーはここへ来た。


「ねぇ、どうして来たのよ」
「お前が苦労してるんじゃねェかと思ってな」
「何よ、それ」
「わけの分からねェ場所に飛ばされて―――――」
「ちょっと」
「老け込んじゃいねェかと」


元はスモーカーと同じく、海軍本部付の身分だったというのに、
理念を曲げる事が出来ず、彼女は出世街道から弾かれてしまった。
年寄り達は彼女の力を知らないのだ。
大将連中とも懇意だったようだが、今はどうなのか。
そんな事を考えていれば、目前にコーヒーカップが差し出され、
芳ばしい香りが漂った。受け取り、口に含む。


「…何だよ、こりゃあ」
「分量を間違えたのかしら」
「泥水の方がまだマシだぜ」


相変わらず、の淹れるコーヒーは死ぬほどマズイし、
彼女と対せば、こちらのペースに引き摺り込む事も出来ない。
お前に会いたいから、こんな場所まで来たんだと、
言えない事もないが、言ってどうなるとも思えない。
が飛ばされてからというもの、距離は目に見えて遠くなり、
近況なんて噂話程度にしか聞く事が出来なくなった。


「なぁ」
「うぅわ、本当。これ死ぬほどマズイわね」
「そんなもん飲んだら、死ぬぞ」
「死にませんけど」
「メシでも喰いに行くか」
「ええ?どうして、そんな話に―――――」
「口直しだ」


上着を手に取り、さり気なく彼女の肩に手を回す。
何の反応もしないはどこの店に行こうか、
だなんて何の疑りもしない会話を始めているわけで、
後何人の海賊を捕まえれば進展するのだろうか、だなんて事を考えていた。





スモーカー(34歳!)
何故お前は知らなかったのかとか
言わないで下さい。散々言われたので(オフで)
しかし、想像よりも若かったよね! 2010/9/28

AnneDoll/水珠