余りにも白々しいこの室内にとマルコは存在する。
口先で戯れるような甘い時は過ごせず、
腹の底を曝け出すような真似も出来ない。
妙に緊張をしたまま、身体一つ裸で対するのだ。
この小さな体でマルコを蹂躙出来るとは思わないが、楽しむ事くらいは出来るだろう。
自らの性が汚れていると感じたのは随分、昔の事であり、
今となっては返って開き直る事も出来る。
どんな女がキレイなのかは分からないけど、見た目だけなら大して変わらないじゃない。
その女の中身がどうあれ、あたしがキレイじゃないなんて言えないでしょう。
妙に自信を持っていると皆が言うが、それは違うと内心思っている。
この美しい外見はあえて作り上げられたものだ。
世の中の道楽全てを知り尽くした男は、
あらゆる手を使い、美しい女を手に入れた。
何よりも美しい子供を作る為に。
どの道、自分以外を愛せない男だ。
ロクに愛せやしないと思い、
只世に一つだけの生き物を手に入れたく子供を作ったらしい。
それがどうして、子供は父親に瓜二つの美しさを持っていた。
自分以外を愛せない男は、自分に瓜二つの娘を愛した。
何よりも―――――
「お前に客が来たよぃ」
「何?」
「今朝方な」
唐突に口を開いたマルコは、こちらを見ずにそう言う。
「お前の親父からの使いだとよぃ」
「…」
あの男は未だのうのうと生き永らえている。
強靭な力も強大な富も全てを持続し、それなのにどうして追う。
喉の奥が冷え、震えさえ起きたがマルコに知らせるつもりはない。
全てを投げ出し、この海へ一人飛び出したのだ。
生きていたくないと思い、元より死ぬ気で自分より強い相手に挑んできた。
それなのに何故だか死なず生きている。
この男が、命を拾ってくれたから。
「それで、どうしたの」
「エースが追い返した」
「えっ?」
「お前は俺達の仲間だ。モノみてェにやれねェだろよぃ」
モノみたいに抱いたお前が何を言うと、思わず笑えた。
不可思議そうなマルコの顔が印象的で、記憶のフォルダに収める。
エースがどんな風に使いを追い返したのかは分からないが、
そう簡単に諦めるような男ではない。
もしかしたら一波乱あるかも知れない。
心の底から愛していると囁くあの男は決して諦めない。
あの男以上に、あたしを愛する男など、
「それに、お前はもう俺のモンだ」
素っ気無い腕でこちらを抱く男は、言葉一つ味気なく言い切る。
予想だにしなかった一言に驚き振り向けば、
マルコはベッドから降り、部屋を出て行く所だった。
つい数秒前の劇的な告白さえ意図してなかったように振り向かない彼は、
今夜もの身を少しだけ貪り、心を丸ごと奪っていく。
マルコ、誕生日おめでとう!(一日遅れですけど)
という話だとは到底思えない話でごめんな!
2010/10/6
AnneDoll/水珠 |