やり場の無い空虚





もう、そんなに無意味な真似はやめなと呟く彼の声は琴線一つ揺らさない。
どうして無意味だと分かるのと返せば、どうして分からねェんだと、
今度は若干、苛立ちながら言うもので、
だからこちらも尖った眼差しを向けた。


詰まらない真似をしているだなんて、そんな事は分かっているのだ。
それでも認めたくない。認めれば全てが意味を成さなくなる。
壁に刃先で傷を付け、彼の戻らない日を刻み続ける。
そんなの真似を、誰もが咎めないのだから、
だから余計に遣り切れなくなった。


エースが戻って来ないと分かっている。
頭の中では十分すぎるほど分かっている。
もう、彼は戻って来ない。分かっている。
それでも、言葉にする事が出来ない。
心が壊れてしまうと思うからだ。


「…ねぇ、マルコ」
「何だよぃ」
「喧嘩別れしたのよ、あたし達」
「…」
「あんたなんかもう知らない、だなんて。馬鹿みたい」


ずっと理解なんて出来てなかった癖にね。
はそう言い、傷を刻みかけた刃先を見つめた。
もう、隙間はないほど壁は彩られている。
細かな傷に彩られている。


この病んだ小部屋は、酷く冷たく、そして狭い。
彼女の後悔ばかりが渦巻き、それで埋め尽くされた部屋だ。
息苦しく、湿った壁に手をつく。


「忘れろ、なんて聞き飽きただろぃ」
「…」
「どうしたらいいんだよぃ、俺ァ。無理矢理お前を手篭めにでもしろってのかよぃ。そしたらお前の気分は晴れるってのか」


いい加減、聞き飽きて苛立ちが隠せなくなってきただけだ。
だったら、どうしてお前は俺を呼ぶんだと、
意図に気づかない振りをして責め立てたい。
そんな過去があるから、お前はどこにも行けないで、
その癖、助けてくれだなんて腕ばかりを伸ばす。
そんな真似は止めろ。俺を舐めるのは止めろよぃ、


「気は晴れないけど、諦めはつくんじゃないの」
「お前…!」
「いっそ、あたしを殺してよ」
「…」
「心だけでも殺してよ、マルコ!!」


そんな真似は何よりも簡単に出来るんだと
吐き出すよりも前に、身体が動いていた。
泣き崩れる前に抱きとめ、馬鹿な真似をするなと呟く。
の眼から涙が零れ落ちた。
より一層、室内の温度が下がったような気がした。





暗!
海賊、第二部が始まりましたね。
何か、二年後のイメージ。
2010/10/11

AnneDoll/水珠