群れを成す虚像





こんな真似をしてもいいのかと哂った彼女は、
だからといって抵抗する事もなく寝具の上で寝転んでいる。
いいも悪いも知った事じゃねェが、今はこうしたいんだと
呟く自身が只の間抜けのようで少しだけ嫌になったが構わない。
ガキの言い分のようだと分かってもいた。


海軍が海賊を追う、だなんてありふれたストーリーはどこにでも転がっている。
別に、スモーカーがを追いかける、たったそれだけの話でもない。
だから、これは特別な事ではないのだと
自身に言い聞かせながら彼女を組み敷き、温い体温を確かめた。


あんたはずっと前からこうしたがってたものね。
唇が触れ合う前に囁かれた言葉は紛れもない真実で、
何だか急に居心地が悪くなる。
この、今まで誰を抱いたかも分からない腕に抱かれたいのだ。
彼女の過去に飲み込まれても構わない。
いや、きっと後々には問題になるのだろうが
(そりゃ、そうだ。そこらの男と同列に並べられてたまるかよ)
今はまだ構わない。


戦いの最中、こちらが追う瞬間の彼女とはまるで違う顔を見たいのだ。
そうしたら、この気持ちが何と呼べるものなのかも分かる。
思い違いなのか、本物なのか。
只の欲望なのか―――――愛なのか。


「あんた、後悔するわよ」
「してたまるかよ」
「するわよ」


他の生き方なんて出来やしない癖に。
華奢な腕で命を奪う女は、寝具の上でもまるで変わらず、
只々頭に血ばかりが昇る。
何だかこちらばかりが必死なようで、
少しだけ冷静になったが今更どうこうする場面でもないだろう。


こちらの必死さを照らし出すように、時折窓からは何かの明かりが室内を照らし、
その都度、の顔が見える。
永遠なんてものは欲しくないが、せめてこの部屋でだけは全てを手に入れる。





そしてスモーカーは
後悔 するね
2010/11/17

AnneDoll/水珠