力を持たない言葉の生成





だから、そもそもが間違っているんだと
知った顔で言いのけたキッドは、恐らく酔っていない。
どうやらこの酒場に入ってからこれまで、
アルコールの類を一切口にしていなかったらしい。
珍しい事だ。あり得ない事だ。
この男、果たして何を考えている。


「…何なのよ、突然」
「いいから黙って聞いてろ」
「うーん…」


そういえば三日ほど前、この男と勢いで寝た事を思い出す。
正直なトコ、何て事を仕出かしてしまったんだと
死ぬほど後悔してしまったわけで、沈黙を答えとしたのだが、
どうやらキッドもそうだったらしい。
何故なら、あの男も口を割らないからだ。
だから、あの日の出来事はキッドと以外、誰も知らない。
喧騒に塗れ、酒を喰らっている皆は誰も知らない。


「ほら、あー…三日前」
「あ、あぁ…(今になってその話なの!?)」
「まぁ、何だ。色々あったじゃねェか」
「ま、まぁね」
「お前は俺の仲間だ。これまでもこれからも、そいつは絶対変わらねェ」
「そ、そうね」
「そいつを念頭に置いて、話を聞け」


酒を飲んでもいないはずなのに、
どうしてキッドの顔はあんなにも赤くなっているのだろう、だとか、
今更ながらどうしてキラー達はあんなにも離れた場所に座っているのだろう、だとかだ。
色々と今更な疑問は浮かぶ。


というか、こんな風に改まって話をする予定だったのなら、
酒を飲むなと言ってくれればよかったのだ。
だって、こちらはとっくにボトルを空けているわけで、
散々酔いかけている。


「あんな事をやっちまった後に言うのもこっ恥ずかしいんだが」
「(えっ、何!?そういう話!?)」
「俺ァ、そういうのはちっとも理解出来ねェし、そもそもがこういう話をするってのもどうかと思うんだが」
「(言い訳がましい…)」
「…」
「(どうしてそこで詰まるのよ!?)」


急に黙り込んだキッドを前に、なす術もなく酒を喰らう。
これは果たして何なのか。
劇的な告白を受ける心構えをしていたというのに、
肝心のキッドは黙り込んでしまうし、酒は進むし、
キラー達はこちらをチラチラチラチラ見ているし、何だこれ。


結局、言及する間もなく酒に飲み込まれたはカウンターに突っ伏し、
わらわらとキラー達が近寄ってきてエンド。
キッドが酒を頼んだ。


「キッド、お前…何をやってるんだ」
「うるせェな」
「その様子じゃ、また言えなかったんだろう、お前」
「クソ、酒を早く寄越せ」
「コイツがいないと生きていけないだなんて、俺に言っても意味がないんだからな」
「頭…!?」
「うるせェな、人前でんな事言ってんじゃねェぞキラー!!」
「自分で言った事だろうに…」


を目の前にしたら言葉が出て来なくなった、
だなんて余りに馬鹿げている。
恥ずかしくて死にそうだったし、何より柄じゃない。
隣ですっかり潰れてしまっただって
流石にどういう話の流れになるか位は察していたはずだ。それでも。


「今日はお前が背負って帰れよ、キッド」
「はァ!?何で俺が」
「どうせコイツだって眠っちゃいないんだ。俺達はもう帰るからな」
「!!」
「(キラー…余計な事を!)」


頑張れよと耳打ちしたキラーを見る事も出来ず、
カウンターを見つめていればキッドが頭を叩くものだから、思わず身を起こす。
キッドに声をかける前に酒を頼めば、
それに続くようにキッドも酒を頼み、
又どうしようもない夜に飲み込まれた。





事後が多い理由は特にないです。
可愛いぜ、キッド。
2010/12/17

AnneDoll/水珠