欠片でも残れるのなら





昨晩までは温く濁っていたこのベッドも、すっかりと冷え切っている。
この現象を『後悔』と名づけたのはいつ頃の事だったか。
幾度も訪れる『後悔』に死ぬほどうんざりしている。
何だか全てにやる気が起きなくなり、もう何もしたくない。考えたくない。
自己嫌悪がこの部屋の中に渦巻いているのだ。


多少の必死さが見え隠れし始めた辺りからはその場を取り繕い始め、
その都度、不必要な彼女の嘘をローが見つける。
暴いても何も得ず、何も失わない。
熱だけが僅かに冷え、それに気づかないよう貪りあう。


「…忘れやがって」


床に落ちていたスタッズは彼女のものだろう。
そういえば持ち合わせていたバックが大小のスタッズに彩られていた気がする。
あんなものはの趣味ではない。あいつの趣味だ。
そういえばここ最近、の色が心なしか変わったような気がする。
口先でどう言おうとも、心の中までは分からない。
そもそもが別れちゃいないのだから、そういう事なのだ。
あいつはきっと、野郎を愛してやがる。


先走り愛を捨て、恋(のようなものだ、あんなものの正体は誰にも掴めやしない)
に飛びついたローは、結局自身の熱で暖めるしかなくなったベッドに寝転ぶ。
大した言葉を綴れないが、の心にこちらの声は届いているのだろうか。
この部屋以外でこちらの事を思い出す場所があるのか。


「キャプテーン」
「何だ」
「そろそろ着くよー」
「あぁ」


そうしてあの女は何食わぬ顔を引っさげ、何れかの島で顔を合わせる。
互いに口を利く事はなく、視線ばかりを交わす。
これまでも、これからも。ずっと。


あの女をものにするには、どうやら遅すぎたらしい。
やり方さえ間違った。
だから、今出来る最善の策は何も考えず、只この場をやり過ごす事だ。
そうしての胸に僅かな傷でもつけば幸い、





困ったときのロー頼み。
今年も続きます。

2011/2/16

AnneDoll/水珠