じっとりと、兎に角身体が湿っていた。全身から噴出す汗の仕業だ。
スモーカーに覆い被さって一時間弱だ。
両腕で彼を挟み、身体の重みで沈むベッドに手を取られる。
スモーカーの唇が手首に触れた。
艶かしい首筋が汗に濡れ、窮屈そうに動いていた。
「…馬鹿みたいね」
「…」
「こんな、初めてでもない癖に」
息まで上がって。
「俺ァ、楽だぜ。それに、眺めもいい」
「何言ってるのよ。昔からそうじゃない」
「まぁな」
こうして弄っていれば無駄な事を考えずに済むのかと思ったが、
どうやらそれは違うらしい。やはり頭の中では色んな事を考えてしまう。
まるでドラマのようにこの男と出会った過去だとか、それに付属する日々だとかだ。
まだ昨日の事のように思い出す事が出来る。
きっと、自分はそれに縋っているのだ。
だから前に進む事が出来ず、崩れ落ちる事もない。
スモーカーの眼差しがこちらを捕らえた。じっと見つめる。そうして微かに笑う。
ああ、そうだ。きっとこの男もとっくに気づいているのだ。
時を止め神に逆らった真似事を続けているが、元には戻れない。
同じようなやり方で同じように抱いてもだ。
「あんた、明日から仕事なんでしょ」
「お前は」
「ええー?」
「答えろよ」
「関係ないし、興味もないでしょ」
悲しい現実を否定するように冷たく言い放つ。
どれだけ身を重ねたとしても思い出に昇華する事はもうない。
日々に消化されるだけだ。あえてその選択をした。
痺れだした腕を放り出し、スモーカーに身体を預ける。
彼の腕が抱き締める感触と共に目を閉じれば、
又しても思い出が目の裏側にちらついていた。
今年初、名前変換なし話(!)
気づかなかっただけですスイマセン
2011/2/16
AnneDoll/水珠 |