もしきみが花も愛せない冷酷なひとだったとして





「だから、そんなものはあってないようなものなのよ」
「また、お前はそういう風に物事を断定して口にして」
「愛だとか恋だとか、そんなもんはありゃしないって事よ!だって、目に見えないじゃない」
「今回はどうしたんだ、一体」
「うるせェぞ手前ら!!何時だと思ってやがる!!」


キッチンのドアが壊れるのではないかと思えるほどの強さで開かれた。
開いたのは寝ぼけ眼のキッドだ。
そうしてそれを迎えるのは、キッドに視線一つ寄越さないと、
辟易とした風のキラーになる。


こんな時間帯にお前は一体何をしているんだ、だとか
人様の陣地に入り込んできているのだから、
少しは気を使い静かにしていやがれ、だとか言いたい事は山ほどある。
山ほどあるのだが、それを口にする元気は今のところない。


「それにしたって、どうしてお前はそんなに可愛気がないんだ」
「はっ!?」
「昔はあったのに、一体全体何があったんだ」
「汚れちまったんだろ、身も心も」


冷蔵庫から冷えたビールを取り出しているキッドが無駄口を挟み、一人で笑った。
今ここでこの男をぶん殴ってもいいが、まだ堪えよう。
正直なところ、キッドの無駄口なんかよりも、
キラーの一言の方がよっぽど堪えたわけだ。
可愛気がないって、あんた、そりゃ。


「どういう意味なの、キラー」
「普通なら、好きな人が出来たら相手に好かれたいだとか、愛されたいだとか。そうして逆も然りだ。愛し愛されたいと願うのが普通だろう」
「だから、愛なんてないって」
「あろうがなかろうが、そんなものは問題じゃない。どうしてそこに固執するんだ」
「可愛くねェ女だから」
「うるっさいのよキッド!」
「そもそもがだな、お前は結構ロクでもねェ女なんだよ。ちっとも自覚はねェみてェだけどな!男を騙して、奪えるだけ奪って、そんで口先だけで愛してるだの何だの…言っとくけどな!お前のその状況は完全に、完膚なきまでにお前のせいだぜ!?自業自得ってのはお前の為にあるような言葉だし、因果応報ってのもそうだ。散々男から美味い汁吸ってた癖に、今更!何を!言ってやがる!」
「…!!」
「キッド」
「何だよ」
「言い過ぎだ」
「はぁ!?あ」


驚き言葉を失ったの眼からポロリと涙が零れ落ちた。
ものの見事に一粒だけだ。
やれやれと頭を振り、キラーが席を立つ。
いや、ちょっと。
お前がいなくなりゃあ心底どうしていいか分からなくなるだろ。俺が。


「…よ」
「え?」
「分かってるわよそんな事!!」
「(開き直りやがった…)」
「それでもあたしはあいつが好きなの!!」


あいつって誰だよと聞く事も出来ず、大泣きするを見下ろす。
どうしてこいつは昔も今も感情に振り回されて人に迷惑をかけるのか。
そうして何故自分は今も昔もこうして迷惑をかけられているのか。


「ちゃーんと慰めろよ、キッド」
「何で、俺が(て言うか、どうやって?)」
「お前が泣かせたんだ」
「キッドに慰められるとか、冗談じゃないし!!」
「お前…」
「あたしだって本当はローの前で泣きたいのに!!」
「「ロー!?」」


キッチンを出ようとしていたキラーでさえ立ち止まり振り返った。
一人泣き喚いているだけが空気の変化に気づかず、
よりにもよってどうしてあの野郎が相手なんだと頭を抱えたキッドとキラーは、
どちらに転んでも結局は迷惑を被るのだと、その事実にだけ気づけないでいた。





ヒロイン視点というか、
キッドとキラー視点。
書きたかっただけです。

2011/2/25

AnneDoll/水珠