きっと甘すぎる





まったく、何一つ音のしない闇の中にいる。
異様なほど煌く星空と凍てつく空気。
そんなにクールな雰囲気はまるで似合わない。にも、自分にも。
火照った身体を持て余し、余計な事を考えないようにと外へ出た。
命を奪った後は非常に昂ぶる。
それはも同じらしく、顔を合わせないように外へ出た。


こちらが命を奪ったからか、それとも元からかは分からないが、ここはやたらと静かだ。
まるで100年分の時を一気に眺めるように、流れていく星達を見つめる。
気づけば、がこちらを見ていた。


「…何だよ」
「何だかもう嫌になるわよね」
「はぁ?」
「毎度毎度、顔を合わせりゃ殺す殺さないの繰り返し。一体いつまで続くのかしら」
「…お前、何かヤってんのか?」
「失礼ね!あたしは正気よあんた達じゃあるまいし」
「だったら由々しき問題だぜ、お前がそんな疑問を抱くだなんてな。どうした、どっかマズイとこでも打ったんじゃねェのか」
「馬鹿言ってんじゃないわよ」


だったら一体どうしたって言うんだよ、とは聞けず軽く笑い流した。
身体はすっかりと冷え、火照りは陰りを見せている。
こんなにも今更な疑問を唐突に抱いた理由は果たして何か。
全てを奪い、暴力で制し、何も残らない現状に満足とまでは言わずとも、
納得くらいはしていたはずだ。俺も、お前も。


この先に何があるのかは分からない。
若しかしたら何もないのかも知れない。
広大な海の先には何もないのかも知れない。
こうして喧騒の中に揉まれている方が、
色んな事を考えないで言い分、マシなのかも知れない。
そもそもがロクに頭を使わないの事だ。
だから、何も考えず俺の側で飼い殺されていればいいのに。


「…そんなのは、今考える事じゃねェだろ」
「えぇ?」
「歳食って、死ぬ直前にゃ過ぎるかも知れねェが」
「明日死ぬかも知れない」
「あぁ?」
「いつ死ぬかなんて分からないじゃない、あんたも、あたしも」


ああ、そういう事なのかと、その時に知る。
こんな折に詰まらない駆け引きをしかけるこの女は、
口先だけの生き死にを使い誘いをかける。
唇の端が微かに歪んだ。きっと、俺も、も。


「すぐ死んじまうような奴ァ要らねェんだよ」
「酷い船長ね」
「手前の命も守れねェような奴ァ、誰も守れねェ」
「…何?あんた、誰かを守る気があるの?」


ずりずりと地を這うように近づき、顔を近づける。
少しだけ避けたの逃げ場を失くすように冷えた地に押し付けた。
大きな、大きな月に背を向けたまま。


「ロクでなし、大いに結構じゃねェか。俺もお前も海賊だ、大した倫理なんざ持っちゃいねェぜ」
「こんな所で盛るなんて、何を考えてるのよ」
「お前が誘ったんだろ」
「…そうだったかしら」


じっとこちらを見上げるの眼差しは、キッドではなく月を写している。
少しだけ間を置き、船の方を向いた。つられるようにキッドも向く。
冷えた空気は頭の芯から火照りを凍らせ、
今更引く事も出来ない身体だけを置いてけぼりにしていた。





アダルトキッド。
今年のキッドはアダルト路線でいきたいなと。
思ってますがどうなるかは不明です(毎度)

2011/3/25

AnneDoll/水珠