こえも届かない





二人一組のチームを組むだなんて、ここ数年ない話だ。
新米の頃は似た力量の面子で組み、何かしらの作戦を遂行する、
だなんてやり方が多かったが、まあこの歳になれば滅多にない事だ。
恐らくも同じ事を思っている。
だから彼女は先ほどから一言も喋らず、こちらに背を向けているわけだ。
そんなに可愛気のない態度を取るんじゃねェよと思うが、
まあ彼女の気持ちも分かる。だから何も言わないでいた。


作戦決行の日時は明日の14:00、まだまだ時間はある。
二人で潜入する為、別々の行動を取るわけにもいかず、こうしてホテルにいる。
酒でも飲みに行こうか。飲みに行きたいのは山々なのだが、
この女がイエスと言うかどうかが問題だ。
こんな機会は滅多にないというのに。


「なァ」
「何なの」
「機嫌が悪ぃな」
「どういう事なの」


石が擦れる音がし、薄い煙が立ち上る。
はまだこちらに背を向けているし、立ち上がる気配もない。


「どういう事って…俺に聞くなよ」
「あんた以外の誰に聞けっていうのよ」


気位の高いこの女は明らかに気分を害している。
何故、この期に及んで自分が誰かと組まなければならないの、だとか、
下っ端にさせるべき潜入捜査を何故自分が指示されしなければならないのだとか。
の気持ちも分かりはするが、それを言い出すのならば自分も同じだ。
それなのに何故自分は怒らず動じず、ここにいるのか。それは―――――


「あんたが手回ししたんでしょ」
「…おいおい」
「あたしだって暇じゃないのよ、こういうやり方はやめて」
「だったらこっちを向け、俺を見ろ、


口を開き続ければロクな結果にならない事は目に見えている。
そんな結果はこれまでにも何度となく手にしているし、厄介ごとは極力避けたい。
打算とまではいかなくとも、それくらいの安全策は取りたい。
言葉を交わすたびに心の壁を厚くするの事だ。だから、今も。


「この前、取り逃がしたらしいじゃねェか」
「その件なら死ぬほど詰められたわよ、とっくにね」
「何で逃がした」
「あんただってアラバスタで似たような真似、したじゃない」
「相手があいつだったからじゃねェのか」
「…何が言いたいの?」


ようやくが振り向き、不機嫌さを増した表情を拝めた。
確信をついたという所だ。
こんな事をする為だけに、こんな、酷く他愛もない、
そうして下らない策略を巡らせた。
馬鹿な真似ばかりをして。
ヒナからそう窘められたが後悔はしていない。
そう。これは馬鹿な真似だ。そうして情けない真似だ。
だからは憤る。彼女の気持ちも少しは理解出来る。


「図星か」
「違う」
「だったら、何だ」
「知らない」
「未練がましい女だぜ」


それは自分も。


「何を話した?奴と会って、逃がして。別れの言葉でも言ったってのか」
「関係…あんたには関係ないでしょう、スモーカー!!」
「何を言ってやがる、関係ねェわけがねェだろうが!」


俺の気持ちを知って、だとかこれまでの過ぎ去った歳月を省みて、だとか。
続く言葉は口を吐かず、この冷え切った室内で只々、熱を発散する身体を置く。
何があってももうお前は俺のものなんだと、
過去にすがる女を抱き締めた所で心はここになく、
どうにか取り繕うと状況の把握に努めた。
あの男と何を話し、何を感じ、どうしてここにいるのか。
本当はお前も一緒にあの時、逃げ出したかったんじゃないのかと。


そう。だから本当に自分は延々と馬鹿な真似をしているのだ。
ありもしない潜入捜査をでっち上げ、身体を貪る理由にして、消費だけを早める。
愛してるなんて言葉は決して口に出せず、これが愛なのかも分からない有様だ。
それでも、そんな分かりもしないものを信じたいだけ。
揺さぶられるこの思いと、苦々しい愛を信じたいだけだ。





海軍話。
ヒナとスモーカーが同期という事は、
ドレークは何かしらの絡みで出て来そうですが。
というか、どうしたのスモーカー。
という話になってしまった。

2011/3/25

AnneDoll/水珠