速く鋭く舞い降りて





一際大きなの悲鳴が耳に届き、
ドフラミンゴ辺りが嬉しそうに舌打ちをした。
やれやれ又あの女なのかと眉間に皺を寄せたクロコダイルは
視線を寄越したように思う。
皆の後一歩がぎりぎりのラインで届かなかった。
只、それだけの事。


丁度、クザンと対していた彼女は彼の腕を振り払い、
その現場へ向かった。
あの女を捕まえる絶好の機会を逃してたまるかとクザンも冷気を放ったが、
僅かに届かず背を見送る。
血を吐いた彼女の横顔、
これまで幾度となく想像してきた局面だったが、余りにも外野が多すぎる。
彼女の顔をまじまじと見る機会もなく、手を離さざるを得なかった。
こんな機会でもなければ遭遇する事さえ叶わず、
世界が驚いたの登場さえ時代の崩壊には霞む。


地に伏したエースに近づこうと駆けた彼女を止めたのはクロコダイルだった。
彼の腕はを抱きとめ、
感情に振り回されるような詰まらない真似はするなと告げていた。
彼女の耳に届いたかどうかは分からない。
それから先は入り混じっての攻防戦となり、彼女の姿なんて見えなくなった。


「…正気に戻ったか」
「記憶なんて早々失わないのね」
「そんなに繊細なタマか、手前が」
「けどあんまり覚えてないわ、何か、色々」


ていうかあんたどうしてここにいるのよ。
あたしの側になんて一度としていなかったじゃない。


「どういう言い草だよ、そいつは」
「だってそうでしょう」


正気こそ失わなかったものの、多少錯乱したを抱えあの場を離れた。
ぎゃあぎゃあと相当にうるさかったが、
あんな場所で(錯乱なんてしたまま)事切れられるわけにもいかないし、
みすみす海軍の手に渡すのも何だか癪だ。
誰かが手を貸す前に連れ出しただけだ。


「お前、これからどうするんだ」
「えぇ?」
「深読みなんざする必要はねェ。単なる質問だ」
「これまでと一緒、雲隠れするわよ。あんたは?」
「…さァな」
「さァなって、あんたこそ深読みなんてしないでよ。あんたの行き先になんて興味ないわよ」


あっけらかんと口を開く彼女の心は分からない。
正直な所、顔を合わせたのも五年振りだ。
あの時はこの女の方から顔を出した。
アラバスタを手中に入れる直前の出来事だった。
その前はいつだった。もっと昔、もっともっと昔。ああ、そうだ。


「何よ。あんたとは、二度と寝ないわよ」
「馬鹿言ってんじゃねェ、俺だって願い下げだ」
「失礼な男ね」
「お前ほどじゃねェよ」
「ていうか、誘ってるの?もしかして」
「…」


これから共にやって行こうじゃねェか、
だなんてどの面を下げて言っていいのかも分からないし、
理由を聞かれればそれこそ答える事が出来ない。
傷を舐めあうのも勝手だ。
何故を連れ逃げたのか。
その答に至っては未だによく分からない。


「奴らは俺とお前が一緒にいると思ってるだろうぜ」
「何よそれ、笑えない」
「まったくだぜ」


だから、これから先の時間を一緒に過ごそうだなんて微塵も思っていない。
それでも第三者が二人一組なのだと勘違いをするのは勝手だ。
少し眠ると告げたクロコダイルの横、が背伸びをしていた。





久方振りにクロコダイル。
というか、ここの場面から
余りにも時間が動かない当サイトです。
駄目だなあとは随分思っております。
長い目で見て頂ければ幸い…。

2011/3/30

AnneDoll/水珠