やさしく微笑んで嘲る





一昨日に喰らった傷が酷く疼いている。
今に始まった痛みではないはずなのに、嫌に気になるのだ。
この身体に傷跡がどれほど残るのかは分からないが、
汚れていく事だけははっきりと理解出来る。美しくない。
あたしという生き物は余りにも美しくないのだ。


これまで奪われっぱなしの生き様だった。
という事は、誰かが手を伸ばしたくなる程度の魅力があったという事だ。
少なくとも以前は。
だからもう何も残っていないというのに、どうして未だに奪おうとするのか。
もう何も残っていないのだ。本当に、何も。


「酷いな」
「あんた、いつからいるの」
「今、来た」
「嘘ね」
「ばれたか」


キラーはそう言い、少しだけ笑った。
あの仮面の中がどうなっているのかは定かではない。
それは今も昔もだ。
派手な柄シャツを身に纏い、人目につきながら生きる彼は評判もよくない。


、お前。一人でどうする」
「誰かとつるむのは面倒だわ」
「だからといって、いつまでも一人じゃどうにもならないだろ」
「何よ。これを見てそう言ってるの?」
「そうだ」


新世界を一人でやっていけると思うほど馬鹿ではない。
誰かがいる。誰か。仲間と呼べる誰かが。
搾取しない相手が必要だ。


「だからって今更…誰かと一緒ってのもね」
「キッドが呼んでるぞ」
「あんた達と一緒ってのもねぇ…評判、悪いでしょ」
「お前一人の評判だって、似たようなものだろう」
「失礼ね」
「というか、お前一人でこれだけ評判が悪いんだ。俺達の負けだな」
「どんな言い草よ」


誰も近づかないように悪評ばかりをばら撒いた。
一度足を踏み外せば転げ落ちるのは容易く、
正直なところ何を目指しているのかが分からなくなった。
それでも辛うじてこびり付いていた新世界への憧れを糧に先へ進んだ。
進むごとに傷を負っているが、問題ないだろう。命だけは何故か残っている。


「見せてみろ、
「嫌よ」
「痛むんだろ、いいから見せろ」
「…」


左腕をとられ、患部を開かれれば中身を晒されたようで
酷く心もとない気分になる。
自分という生き物は酷く惨めで、どうしようもない生き物だ。
それを知られたくない。キッドにもキラーにも。
自分以外の他の誰にもだ。
だから誰ともいない。
こんな自身の惨めさは一人で墓まで持っていく。


「化膿してるな」
「痛いはずね」
「ここじゃどうにもならないな。行くぞ」
「行くって、どこに」
「船だ」
「嫌よ」
「嫌も何も、ここじゃ処置も出来ないだろう。このままじゃあ腕が腐れ落ちてしまうぞ」
「嫌な事、言うのね」
「事実だからな」


こんな腕をぶら下げたままキッドと顔を合わせれば、散々馬鹿にされるはずだ。
怪我をするだなんて馬鹿だ、だとか弱いから怪我をしたんだ、だとか。
腐るだなんてお前に似合いの結末だ、だとか―――――


「俺達の世話になるわけじゃない」
「そんなの、気にしてないわよ」
「そうかな」
「そうよ」


立ち上がり靴をはき直す。
情けなさという自身を隠す為に大きく息を吸い込めば、
何だか全てを見透かしたようなキラーがこちらを見ていた。





書き終えた後に名前変換箇所がなかったと
気づいた次第ですよ…。
キラー単体は珍しいよねえ。

2011/4/30

AnneDoll/水珠