幼いままの瞳で蔑んで





重苦しい身体を引き摺り、どうにか頑張ってシャワーを浴びた。
這いずりながら冷えたタイルを乗り越え、
バスタブにもたれかかり冷たい水を全身にぶっかける。
自らの吐き出す息が酷く酒臭い。
酩酊状態に近いが意識は何故かなくならない。
それがいい事なのか悪い事なのかは分からないまでもだ。


そうしてそのまま三十分ほど時間をやり過ごし、びしょ濡れのまま部屋へ戻った。
醜くやつれた身体を放り投げ、価値のなくなった己を確かめた。
こんな身体もこんな自身も全て用なしだ。
誰かの価値ではない、自分自身の価値に値しない。
美意識が飛びぬけて高いわけではないはずなのに、
どうしてそんな思いを抱いてしまうのだろう。


「何て格好だ、おい」
「勝手に、入って来ないで」
「ここは俺の船だ。お前の指図は受けねェよ」


ノックもなしに入って来たローは、図々しくもそう言いこちらの身体を一瞥した。
ローの眼差しに射抜かれれば自身の価値は暴落する。
何の興味も持たないような冷たい眼差し。
大暴落した自身を慰める術は持たないが、
下手に気を張らなくていい分、楽に生きていける。
だからはこの船にいる。


「もう少し、肉、つけな」
「あんたもね」
「そんな身体じゃ客も取れねェぜ」


ベッドに思い切り飛び込み、
クッションを抱き締めながらそう言うローに悪意はないのだろう。
この船に乗り込んでからというものの、
何だかんだと理由をつけ仕事の邪魔ばかりをしてくるローの真意は分からないのだ。
ローだってこちらに手は出さない。馬鹿な真似だと分かっているからだ。


「客なんか取っても、金にはならないわよ、もう」
「だな」
「何よ、少しは優しくしなさいよ」
「一銭にもなりゃしねェだろ」


お前に優しくしても。
口を開けば憎まれ口ばかりを叩くこの男を快くは思えない。
さっさとこの部屋から出て行き、
あたしを一人にしてくれと毎度願うが何故か叶わない。
ひとりきりで眠れないと知っているからか。
バスタオルを羽織りローの隣に寝転べば、男の腕が腰に回りぐっと身を引いた。
微かな膨らみを感じながら目を閉じれば、無意識に祈りの言葉を口にしていた。





今回の更新は変換箇所が
とにかくすっげえ少ないよごめん。

2011/4/30

AnneDoll/水珠