それ、故に





あの女が白ひげ海賊団の隊長だと知ったのは、つい最近の事だ。
どこぞの海賊だとは思っていたが、まさかあの海賊団だとは夢にも思わず、
尚且つ隊長格だったとは正直な所恐れ入ったが、
顔を合わせてもこれまでと態度一つ変わらないものだから、だからこうして対座している。
というか、崖っぷちに座り込んだを目にし、思わず声をかけた。


遥か眼下には轟々と唸る渦が口をあけて彼女を待ち構えているのだし、
自分もも能力者だ。落ちればひとたまりもないだろう。


「…何やってんだ」
「座ってんのよ」
「そんなのは、見りゃ分かる」
「珍しいわね、あんた、一人なの?」
「お前はいつも一人だもんな」
「どうせ、あんた達がここを通るだろうと思ってさ。待ってたのよ」
「何?」
「お別れでも言おうと思って」
「はぁ?」


羽織った薄手のストールが肌蹴、細い腕が見えた。
件のマークが施されている事には気づかない振りをした。
はこちらに視線だけを送り、僅かに笑ったように思う。


「新世界に戻るのかよ」
「まぁ、それもあるんだけど」
「元々、そっちにいる方が当たり前じゃねェか。そもそも何でここにいるんだって話だぜ」
「好きなのよね、あんた達みたいなルーキーを見るのが」
「青田買いならぬ青田喰いってか。趣味悪ぃ」
「あんた、失礼よね…。別にそういうのじゃないし、そもそも、あんたとやったのは、あんたが誘ってきたからでしょ」
「そういう事を平然と言えるとこが若くねェんだよ」
「ユースタス君、少し黙ってもらえるかしら?」


昔からこの島にはルーキーが集う。自分もその一人だった。
この島に来るまでは野望に胸昂ぶらせ、そうして眼差しはぎらつきながら出て行く。
その先に何が待ち構えているかは知らずに。だから、自分は恵まれているのだ。
この島に初めて来た時の仲間は皆死んだが、今は新しい仲間に囲まれている。


「ねぇ、キッド」
「ユースタス君、じゃねェのか」
「こっち向いて。顔、ほら、顔」
「何だよ」
「あたしの事、忘れないでね」
「気持ちが悪ィ事を言うな。柄にもねェ」


恐らく、彼は高みを目指すはずだ。誰しもが憧れる海賊の高みを。
そうして彼はまだ知らないはずだ。この先の海に何が待ち構えているかを。
高みを目指すのならば何れ終着する場所には何があるのか。
その途中にでも顔を合わせるに違いない。こちらはとっくに気づいてしまっている。
もう先には何もない。今日という同じ日の繰り返し。明日は来ないのと同義だ。


「お前こそ、忘れんだろ」
「まさか」
「次に顔、合わせる時なんてあるのかよ」
「あるわよ」
「ふうん」


まるで信じていない口ぶりのキッドは詰まらなさそうに視線を外した。
足元では相変わらず渦が轟々と大きな口を空けたまま唸りを上げている。





まさかの前後編

2011/5/21

AnneDoll/水珠