緋色に沈む








あんたがあたしの事を好きだろうが好きでなかろうが、
そんなものはどうでもいいのよと、恐らく彼女はそう言うだろうし、
口に出したところでこちらの本心もさほど返答を求めていないのだ。
それでも理由だけが分からず側にいる。


身を重ねようと願われれば断る理由もなく、
何となく肌寒い時には触れたくもなるが、不思議と互いにそうしない。
手に取り確かめ合うような関係ではないのだろう。
ならば何故、側にいる。


関係の理由を知りたくなってしまったのだ。
単なる興味心、他ならない。
悪意はあるのかも知れない。


「…何よ」
「いや、何もねェよ」
「薬をくれる気になったっての」
「いや、それはねェ」
「だったら、向こうに行っててよ。あんたの相手なんか出来る状態じゃないのよ」
「ここは俺の船だぜ。お前の指図は受けねェよ」


この女の願いは叶わない。この女の状態は決してよくならない。
分かっている。少なくともローは理解している。
薬を欲しいが為に船を訪れるこの女はよその海賊であり、
頻繁に顔を見せる事は彼女の首を絞めかねない。分かっている。


まあ、それでも彼女の状態は永久にこのままだろうし、
最初ばかりは戸惑いもしたが既に慣れた。
だからこれが当たり前の生活で、これ以上も以下もない。
の状態はいつまでもこのままで、ローの生活に色濃く姿を残す。


の求める薬はないのだ。
どんな名医でも処方する事は出来ない。
だから決して彼女の手に入らないのに、何故はここにいる。
やはり何かしら理由が、理由を求めてはいけないのか。
もしかしてお前、気づいていねェだけじゃないか。
お前の心の奥には本当は。


「あんたの事、好きよ」
「―――――はっ?」
「人柄が好きって事よ。勘違いしないで」
「まぁ、俺ァ、色んな奴に好かれるが」
「はいはい」


まるでこちらの胸の内を見透かされたようで思わず笑った。
その、まるで用意されていたような返答に笑った。
まあ、それでも恐らく逆に、からの問いかけで
同じ事を言われれば自分自身の返答も同じようなものだ。


この女は死にたいくらいの苦しみに苛まれながらそれでも生き、
まったく不要な俺の側で不愉快そうに溜息を吐く。





前回更新のローの続きというか同じ主人公です。
どういう話なのかはよく分からないけども。

2011/6/1

AnneDoll/水珠