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幼い夢に溺れる








人っ子一人近寄らないような場所だ。
何故ならよくないから。
自分達のような輩が顔を出すような場所だからだ。
それも時間帯は深夜。
波音だけが響き渡り、その中に小さな歌声が混じっていた。


「…よぉ」
「あんた、又、来たの」
「言ったろぃ」
「約束なんて守る男じゃないと思ってたわ」
「守るなんて言わねェが」


守りたい約束だけ守ると笑えば、それは随分身勝手な言い分ねと返される。
もっともな意見だ。
ここで一人口ずさむを見つけたのは半月ほど前の事で、
マルコの姿を目にした彼女は特に驚く様子もなく、
こんな所に来るだなんて変わってるのねと笑った。
こんな所にお前みてェな女がいる事の方がおかしいだろうと言えば、
何故だか軽く無視をされ、それから少しだけ気になる存在になった。


「今日は案外、冷え込むな」
「そう?」
「見てみろぃ。息も真っ白だろがよぃ」
「本当だ。気づかなかった」
「向こうに倉庫があるだろ。そこに行こうぜ」
「…あんたと?」
「…他意は、ねェ」
「嘘吐きね。しかも下手」
「俺ァ、寒さにそう強くねェもんでね」
「変な誘い方」


こんな場所にわざわざ出向いて来るような男を信じる道理はない。
それでも闇に紛れた誘惑に抗う事は出来ないはずだ。
仕方がないと呟いたは地面に脱ぎ捨てていた上着を手に取り、マルコを見つめる。
その気はないと言わんばかりにそつなく返せば、
酷い嘘吐きだとが又、笑った。





何かマルコ。凄い久々に書いた気がする。

2011/6/2

AnneDoll/水珠