囁く声が遠くなるほど








もう二度とあたしに近づかないでよと
彼女が果たして何度吐き捨てたのか分からない。
兎にも角にも一人になりたいらしいは、
こちらがどれだけの愛を差し出そうと手に取りもせず足蹴にするわけだ。
最初こそはその態度が気に入らず、
無我夢中の愛情なんてものを押し付けていたが、
今日に至っては面白がるに留まっている。


正直なところ、に何をされても心は動かないし、
それはきっと彼女とて同じはずだ。
共に苦しみぬいたはずだから。


「帰ろうぜ、
「放っておいて」
「そんなわけにゃいかねェだろ」
「あたしの事なんて、もう放っておいてよ、シャンクス」
「だってお前、泣いてんじゃねェか」
「分かってるんなら、放っておいてよ」


このやり取りは既に惰性と化しており、只の無駄な出来事に成り果てている。
次はない、もうこの一日だけのやり取りで終わらせようと幾度となく思い、
その最後の一日は未だに訪れず惰性の繰り返しと成り果てた。


「いつまでも、こんな場所にはいれねェだろ。俺達以外、誰もいねェぜ」
「知ってる」
「誰もいねェし、誰も来やしねェ。野垂れ死ぬのが関の山だ」
「誰か、来るわよ」
「誰が」
「あんた以外の、誰か」


誰もここには来ない。
そんな事はも自分も分かっている。
こんな場所には絶対に誰も来ない。
それが只の、たった一つの真実だ。


そうして、こんな局面でよくもその真実を口に出来たものだと笑い、
穏やかだったはずの心が淀めく音を聞く。


「…殺すの?」
「何?」
「あたしか、あたしを迎えに来た男か。どっちか分からないけど。どっちもかしら」
「殺すわけ、ねェだろ?」
「本当かしら」


結局、お前が俺のものにならないってのが未だに理解出来ねェんだよな。
だからって殺しちまえばお前に会えなくなるし、
そうしたら変に胸の辺りが苦しくなるもんだから、
こんな淋しい場所で俺達は無駄な時間を費やしてるんだろ。


「本当さ。俺ァお前に嘘は吐かねェ」
「…そうね」
「分かってくれたろ。なぁ、


こちらが少しだけ弱い口調でそう囁けば、は涙を飲み込み顔を上げる。
この女も随分間抜けなもので、
惰性から抜け出せずこんな真似で又、一日を終わらせるのだ。





シャンクスの話は大半が
関係さえも成立していない。

2011/6/20

AnneDoll/水珠