強くて脆かった








あいつがあたしを好きにならないって事は、
正直なところ、とっくに分かっているのだ。
あいつはあたしを決して好きにならないし、
あたしを異性として見る事もないだろう。
それはきっと、永久にそうで、悲しいけれど揺るぎない真実だ。
こうして共に同じ船に乗り、命を庇い合い生きているけれど、
それは愛だとか恋だとか、そういったベクトルの話ではないのだ。
キッドはそれこそ、命を呈してあたしを守るのだろうし、それはあたしも同じだ。
互いに同じレベルで互いを必要とし、大事に思っている。
それなのに、あたしはキッドに愛される事だけはないのだ。
その苦しみはキッドの顔を見る度に湧き上がり、あたしの心を黒く汚す。
この汚れは取れない。
何かの拍子に口を突きたくなるのだけれど、
その後に待ち構えている展開が分かりきっている為、絶対に行わない。
戸惑ったキッドの顔なんて、あたしは絶対に見たくないからだ。
そんなキッドの顔を見てしまえば、あたしは確実に泣いてしまうだろう。
余りにも、自身が情けなくて。
だから、あたしは今日もこうして笑い、彼が彼で在るべく存在する。
誰からも恐れおののかれ、威風堂々と闊歩するユースタス・キッドである為に。
彼の指先があたしに触れなくても、彼の唇があたしの名を口ずさむ限りは。





唐突な一人称。
尚且つ、変換なし(すまん)

2011/6/20

AnneDoll/水珠