強くて脆かった








俺はあいつを絶対に好きにならねえ。
一人の女として、絶対に好きになる事はねえ。
わざわざ口に出してまで宣言するような事じゃあねえが、
改めて言うならばそうだ。
俺はあいつを決して好きにならないし、あいつを異性として見る事もねえだろう。
それはきっと、永久にそうで、何故だかはちっとも分からねえが。
こうして共に同じ船に乗り、命を庇い合い生きてはいるが、
それは愛だとか恋だとか、そういったベクトルの話じゃねえ。
あいつはそれこそ、命を呈して俺を守るのだろうし、それは俺も同じだ。
互いに同じレベルで互いを必要とし、大事に思っている。
それなのに、俺はあいつを愛する事だけがない。
俺の命に変えても守りたいと思っているにも関わらず、
そういった対象にならないのは何故か。
あいつは仲間だからだ。
そうして自分が酷く不器用だからだと知っている。
仲間以上に大事な奴はいないからだ。
妙な感情を紛らせれば厄介事が増え、平等ではなくなるかも知れない。
この船の秩序は保てなくなるかも知れない。
全てを台無しにしてしまうかも知れない。
だったら、受け入れないに限る。
勝算の少ない賭には手を出さないに限るわけだ。
あいつが、悲しもうとも。
こちらが気づかないでいれば全ては起こらず、何事もない平穏な日々が消化される。
きっと、死ぬまで。
余りにも自身が情けないような気もするが、どの道伝えないのだから不問とする。
そうして俺は今日もこうして笑い、俺が俺で在るべく存在する。
誰からも恐れおののかれ、威風堂々と闊歩するユースタス・キッドである為に。
指先があいつに触れる事はなくとも、あいつの唇が俺の名を口ずさむ限りは。





そうして何故だがキッドまで一人称。
無論、変換はない…。

2011/6/20

AnneDoll/水珠