駆け引きも何も要りません、欲しいのはあなたの、








賑わいを消さない酒場のドアを開ければ、随分見慣れた輩が屯しており一瞥をくれた。
が来やがったと誰かが呟いている。やはりそちらにも一瞥。
直接声をかけてこないという事は、こちらは知らないという事だ。
煙の渦巻く店内を奥に進み、適当な酒を頼む。
シャンクスは少し遅れて来た。


「よぉ、
「久方振りね」
「ちっとも顔を見せやしねェからな。淋しかったぜ」
「相変わらず口が上手いのね」
「しっかし、お前。この店でよかったのか?」
「何よそれ」
「右奥、マルコ達がいるぜ」
「…」


振り返る事も出来ず、グラスに手を伸ばした。
こちらはまったく気づいておらず、向こうからの接触もない。
それがどういう意味を持つのかは気づかない振りをしている。
まさか、こんな酒場で顔を合わせる事になるとは思わず、
それでも酒を飲んでいる時に出くわした事実が笑えた。


きっと、互いに笑い話へと昇華しているはずだ。
それこそ、随分昔の話だし、今となっては若かりし頃の過ちだと断定出来る。
ならば、何故。
それなのに何故口さえ開かない。


「お前達の関係はあれだな。面倒くせェな」
「知ってる」
「ここまでこじれるってのも、そうねェぜ」
「そうかもね」
「いい加減、和解したらどうだよ」
「さぁ」


マルコは過去の過ちなど目にしたくないのだろうし、そんなのはこちらも同じだ。
結局、マルコは例の彼女と別れたわけだし、それ以来特定の女をつくっていない。
原因は自分なのだろうかとも思うが、そんなものはお互い様だ。
悪意こそなかったが、悪いのは二人だと知っている。
だからマルコはこちらを見ない。


「酔いが回って殺しあうなよ」
「…それは約束出来ないけど」
「俺ァ、止めねェぜ」
「別に構わないわよ」


この指先がマルコに触れていた事をぼんやりと思い出せば、
あの頃抱いた僅かな罪悪感まで蘇りそうで振り払う。
もう友達には戻れないと知ってはいるが、
やはりその事実が余りに悲しく、
何の根拠もない希望に縋っているのだと、それも知っていた。





マルコの話なんですが、
正直マルコ、一つも出て来てないので
これはシャンクスの話にしてます。
マルコ、名前しか出て来てねえもの。

2011/7/03

AnneDoll/水珠