嘘とも知らずに








心の弱い部分なんてものは誰にも見せたくなく、それこそひた隠しにするべきものだ。
隠し続ければ何れ忘れ、忘却の彼方へ置き去られる。
何故隠すのかと問われても明確な返答は出来ないが、
よくない事が起きるからだと、確信こそ抱けずともそう思った。
弱さは付け入る隙を与える。悪意があろうがなかろうがだ。
それが例え相手側からの善意だとしても
結果としては付けこまれた形になるのだから、その事態だけを恐れ隠すのだろう。
心が動揺する展開は決して望まず、目に見える全てを事実とする。
目を開ける事が出来なかった理由は成す術を持たなかったからで、
それと同時に己の非を認めたくなかったからだ。
余りにも間抜けすぎる自身を目の当たりにしたくなかった。
他人を受け入れる事さえ出来ない癖に、
何を一人前の振りをしていたのかと、浅はかさを悔やんだ。
唇は乾いていた。
きつく抱き締められた身体は只、痛みを増していた。
心はどこかへ出かけていたようで、
今この場に存在するのは痛みを感じる心と状況を把握しようとする脳だけだ。
ローは目を閉じている。決して開かない。
何を考えているのかが分からない。
消費のサイクルに落ちてしまったのだろうかと思え、
それは少しばかり淋しかったが今更どうする事も出来ない。
何故、どうして、何の為に。
これまでの言葉は全て嘘だったのか。
若しくはアルコールがお前の心を冒したのか。
だったら、じきにこの男は後悔する。あたしを後悔とする。
それでも構わないと思ったのだろう。
こちらが抱いていた感情とは又違い、
ローもローで何かしらの感情を抱いている。
目に見えない心とやらの中にそれはある。
死ぬほど愛している女を自慢げに口にする傍らでこんな真似をするのだ。
最終ライン、防波堤を崩したのは彼の、妙に冷静に吐き出した言葉で、
そうしてその言葉を受け入れてしまったに責任はある。
だから誰も悪くはない。
彼が望む存在にはなれなかったのだろうと、
そんな、酷くぼんやりとした後悔が湧き上がりかけたが捨てた。
この後悔は何れ悲しみへと変わる。
そんな悲しみは、何れ消費していけばいい。
ここまできたら、腹ァ括るしかねェだろ。
彼の言葉は有無を言わせないだけの説得力があった。
確かにそうだと思えるほどの力があった。
目は見ず、顔も見ず、それは若しかしたらお互い様だったのかも知れない。
分からない。本当のところ、何も分かっていない。
只のゲームで、その場限りの単調な戯言だと笑えばいいのだろうか。
それでも。これまでの言葉は、
お前がこれまであたしに向けた言葉は
全て嘘だったのかと思えばやはり心は苦しく、
感覚を鈍らせ何も感じないように身体を変えてしまいたいが、
どうにもあの男の身体の重みがしつこくもアレを現実だと思い出させてくれ、
不自然に痛む身体を引き摺りながら、何事もなかったように日々を過ごす。





どん引きするほど暗くてスマン。

2011/7/22

AnneDoll/水珠