どうか君だけは、(そう願った僕には気付かないでいて)





もう知らねぇ、だったか好きにしろ、だったか。
まあ、そんな言葉を捨て台詞にし部屋を出た。
どうにも口では に勝つ事が出来ず、だからといって腹はたつわけで、
このままでは又しても物を壊してしまうと思った。だなんて只の言い訳だ。


口論は元々好きではない。
口より先に手が出てしまう性質でもあるし、何を言いたいのかが途中で分からなくなるから。
兎角、口の回る は色んな言い方でキッドを問い詰める。
こちらが吐き捨てた瞬間、 はどんな顔をしていただろう。
少しだけ彼女の事が胸を過ぎるが、そんなものはすぐに消す。
後悔なんて口論の後は毎回している。


それでも、せいせいしたぜと口走るのだ。
とキッドの口論は毎度の事ながら船内に響き渡っている。
珍しくもない為、誰も口は挟まない。
只、喧嘩をした後はキラーと飲みに行く回数が心持増えるだけだ。
酒を飲みながら言う。せいせいしたぜ。


しかし何故、こんな事になってしまうのか。
付き合い始めはあんなに互いを肯定し、互いの意見を受け入れ尊重していたというのに。
許せる幅が時が経過すると共に段々と狭まっているような気がしている。
自分とまったく同じ人間になれば楽しくもないはずなのに、どうして同じにしようとするのか。
他人からそんな相談を聞かされれば、息つく間もなくエゴだろうと言ってのけるのに。


それにしても今回の口論は疲れた。
元々勝気な女だが、決して非を認めようとしないから。
だからキッドもむきになってしまった。恐らく、 も同じような事を思っている。


の部屋から段々と遠ざかり、
皆がいるであろうキッチンも通り過ぎ、頭を冷やそうと甲板へ向かう。
本当は知っていた。こんな言い争いの後、キッドが部屋を出た後だ。
が一人で泣いている事。そうして喧嘩の終わりは決まって彼女の方から謝る事。
知っているのに繰り返す。だから、余計に嫌になる。
の泣き顔を見た事がないんじゃあなくて、見ていなかっただけだ。
だって、そうじゃねぇか。
言い捨てドアに向かう間、視界の隅に翳った の顔を本当は覚えている。
あいつは、泣きそうな顔をしてたじゃねぇか。


甲板に出る直前に踵を返し、来た道を戻る。
少しだけ足早に。彼女が一人であの部屋を出る前に。









女は男を追い詰めやすいと聞きますが、
きっと口がたつからですね。
口がたつ男は、口がたつ女とは
又違うやり方をしますけど。
喧嘩キッド。本当は俺が悪いと知ってるキッド、です。
何だそれ。
2010/1/19

AnneDoll/水珠