黒に染まる空色








俺にもお前にも、結局は何もないんだよと彼はぽつりと呟いた。
結局のところ目に見える形では何も残る事はないし、
目に見えないものをお前たちは欲しがるけれど、
そんなものは結局目に見えやしねェんだから、
残っていようが残ってなかろうが誰にも分かりゃしねェし。
そんなものを欲しがるんなら、心の中ってやつでだけ、湿度を保つ他ねェだろ。
珍しく感傷的な事を口にしていると思いながらもその理由は問わない。
面倒な話になりそうだからだ。


ローは基本的に心の話を好まない。
感情を蔑ろにしているわけではないのだろうが、余り重きを置いていない。
口にした途端言葉はクズになると断言するような、非常にナイーブな男だからだ。
だから甘い言葉なんて決して吐き出さないし、欲しがる素振りもない。
何もない。ああ、だから何もないと言ったのか。


巷に転がる他者への希望や、感情論はこの際ないものとする。
少なくともローには不必要なものだからだ。
だったら、どうだ。自分にとっては、どうなのか。
元々、立ち位置が余りに違いすぎる為、考えた事もなかったが、
どうやら自分はその、心のようなものに重きを置く人種らしい。


だからといって、このローに求めるほど間抜けではない。
同じ人種にはなりえないのだ。
恐らくだが、この男は自分自身だけを信じ、一寸先の未来さえも信じていない。
皆が一心に信じたがるこれから先の希望なんてものも抱いてはいないし、
やはりローの手中にはローしかいないのだ。


「何なの?」
「…いや、特に理由はねェよ」
「人のテンションを下げるだけ下げて…悪趣味よね」
「下がるほうが悪ぃ」


こんな、事を口にしても心の中ではの喜ぶ顔がみたいのだと、
裏腹な願いを抱いている。
彼女のそんな顔がみたいから、共に暮らし過ごしている。
何一つ信じていないし、この関係も信じていないの事もきっと信じていない。


だから彼女の信頼も欲していないし、
そんなものよりも指先の触れる範囲で肌が欲しい。
未来なんて明日生きる事が確定している奴らだけが重宝する幻だ。





何とまあ7月振りの更新という。
すまん。

2011/10/13

AnneDoll/水珠