(HAKUHOU)








昔、それこそ気が遠くなるほど昔の話だ。
俗に言う昔話なんて楽しくもないが、
過去を共有した相手となればその話を持ちださないわけにもいかない。
言葉少なめにポツリポツリと過去の思い出とやらを口にすれば
が少しだけ笑った。懐かしいわねと笑った。


望郷するなんて、あの頃の自分達にしてみれば考えられない展開だ。
長生きなんてするつもりもなかったし、明日死んでもいいとさえ思っていた。
だから二人の関係が思い出なんてものに昇華するとは夢にも思っていなかったわけだ。
消費され、廃棄されるものとばかり。


「あんた、今何してるのよ」
「海賊」
「ヤブ医者はやめたの?」
「それも変わらずやってるさ」
「懲りないのね」


どこに行くのも一緒で、まるで離れる事が出来なくて。
呼吸音さえ重なり同じ時を過ごすものだと思っていた。
心の奥底までとっくに見透かされて、隠し事さえなく偽る術さえ持たない。
何もかも全てを曝け出して、それでも厭わないと思っていたのに何故心は離れた。


「お前は何やってんだよ」
「あたし?あたしは変わらないわよ。何も変わらない」
「幸せか?」
「何、それ」
「今、お前は幸せか?なぁ、


俺はどうだとか、そんな事は口が裂けても言わないし、
どんな返答を求めているのかも分からない。
それにしたってこの再会も残り時間は少ないし、
心の中の大半を占めていたという存在が
たった一欠けらに凝縮した理由さえ分からないのだ。
そうして、その欠片がなくならない理由も分からない。
時折疼く、思い出したかのようにその姿を現す。忘れられない。


「幸せよ」
「ふうん」
「改めて言うのって、何か変な感じだけど」


たった数分の再会はもうじき終わり、ローとは互いの生活へ戻る。
指先だけが微かに絡まり、名残惜しそうに空を掻いた。
異国の挨拶宜しく抱き締めあう事も出来るが、
何故だかそんな気持ちにはなれず、
緩々と動く気配を見せた欠片を無理に隠し、背を向ける。





最近、ローの更新率が異常に高いんですが
特に理由はないんですよ。マジで。

2011/10/13

AnneDoll/水珠