僅かな空気で呼吸をしていた








とっとと目を覚ませと呆れた口調でマルコはぼやくが、
今まさに幸運の星の元に産まれてきたに違いないと、
自身の置かれた状況を承知していたには届かない。
お前の言う幸運なんてものは一過性で、
じきに逃げちまうんだよと今度はサッチが笑った。


まあ、彼らの発言は正しかったといえる。
の好きだったとある男はの他に三人の恋人がおり、
正式な妻が一人おり、子供は計五人いた。
馬鹿みたいにショックを受け船に戻ったに、
エース辺りは口先だけかも知れないが心配だと言葉をかけてくれたが、
マルコはだから言ったろぃ、などと打て合わないし、
サッチは腹を抱えて笑う始末。


子供がいるんだって。ねぇ、しかも五人も。
っていうか彼女がいるんだって、あたしを含めて四人。
しかも、嫁がいた。笑えないんだけど。
笑えないんだけど、マルコ。


その夜、エースに対し延々と愚痴っているを横目に
船を抜け出したマルコは、とある酒場へと向かう。
ここ最近、行きつけにしている酒場だ。
特に値段も安くはなく、美味い酒があるわけでもない。


只、ここには、つい最近、俺は非常についているんだと
豪語して憚らない男がいるのだ。
俺ァ今、最高についててね、あの白ひげ海賊団の女がベタ惚れなのさ。
もう怖いものなんかねぇぜ。


「お、どしたマルコ。遅かったじゃねェか」
「野暮用だよぃ」
「そいつぁ、随分、血生臭ぇ用事だな」
「うるせェよ、サッチ」
「過保護だよなぁ」


にやつくサッチを押しのけ、血の匂いを消すためにシャワーへ向かう。
これはをどうこう思っているから、だとかそんなわけではなく、
単に虫の居所が悪い時に、よくない場所によくない輩がいたからだ。
問題はない、理由もない、運命なんかじゃとてもじゃないが、ない。


シャワーを出ればの相手を仕切ったエースが
疲れたとぼやきながらこちらへ向かってくる。
俺も行きたかったのに、と去り際にエースが呟いた。
お前はの相手をしてろと返せば、まるですっきりしねェと笑う。


「あいつはもう少し男を見る目ってヤツを磨いたほうがいいな」
「お前みてェな男にばっかひっかかるよぃ」
「俺ァ、弱くねェ」
「まぁな」
「死んじまったら仕舞いじゃねェか。あいつが一番悲しむ」
「まぁな」
「似てる事をやってるかも知れねェが、俺ァ死なないからねェ」


まるで悪びれないエースはこの際、不問としよう。
ついてるだなんて軽々しく口にする奴なんてのは、
ロクでもねェんだよと言いのけたマルコは背伸びをし甲板へ向かう。
きっと今夜も海は静かに佇み、大きな月を飲み込んでいるだろう。





この三人はいいよねえ。

2011/10/13

AnneDoll/水珠