その意志を継ぐのは誰ですか








どうしてこんな所にまでやって来たのと呟くは、不機嫌そのものだ。
こちらを向きもしない。
長い歳月をかけて探し出したというのに、
相変わらず報われないのだと思いながらドアを閉めた。


あの戦争が終結し、は姿を消した。
姿を消した輩は多かったし、エースの弟達も姿を消したが、
まさかまで姿を消す事になるとは思わず、多少なりとも複雑な思いを抱く。
あれは仕方のない事だったのだと、運命とはそういうものなのだと言い聞かせるが、
やはり希望は捨てきれず、悔やむ気持ちと折り合いをつける。
そうして皆、過去を清算するのだ。


ところが、目前の女は過去を清算する事も出来ず、
こんな場所で一人、人生を嘆いているのだろう。
皆が、お前を捜しているぜ。


「何の用なの、マルコ」
「妙な奴らに、お前が捕まっちまわねェように、保護しに来たんだよぃ」
「…何よ、それ」
「お前にゃ、賞金がかけられてる」
「…へェ、いつの間に?ああ、あの戦争で?」
「そうだろよぃ」
「馬鹿馬鹿しい」


元々、このという女は適当な女だ。
能力者であり、海賊ではなく、だからといって何かをしていたわけでもない。
正しくは、何もしていない。只、生きていただけだ。
だから誰もの事を知らなかった。
彼女の力も、存在も、全てを。
危惧さえされていなかったのだ。


「あたしはここで、静かに弔ってるのよ」
「もう、十分だろぃ」
「十分なんて、ない」
「俺達は海賊だ。明日の事なんざ考えて生きちゃいねェんだよぃ。
 目に見えもしねェ栄光や名声に手ェ伸ばして、一瞬でもいいんだよ。
 それを手にして、そんで仕舞いだ。
 弔われるような生き方なんざしちゃいねェんだよぃ」


だから、そんな無駄な事はやめろ、だったか。
お前にはどうせ理解出来ないとも言った。
確かにそれはその通りだと思う。まるで理解出来ない。
あんな生き方を、どうして理解出来るのか。何故、引き摺らない。
残された者はどうして生きていけばいい。


これまで自分と関係する人間が死ぬ事はなかった。
生死とはかけ離れた、普通の人と同じ暮らしをしていたからだ。
だから、海賊の考えはに理解出来ない。


「立ち直れとは言わねェ。だけどな、いつまでもここにゃいられねェんだよぃ」
「どこに行けっていうのよ」
「俺の所に来い。行き先は、それから決めりゃいいだろぃ」
「どうして」
「あんな戦いを一緒に生き抜いたんだ」


もう俺達は仲間だろぃとマルコは言った。何の曇りもなく言いきった。
だからきっと、それが単純に嬉しかったのだと思う。
エースも同じような気持ちだったのだろうか。ふとそう思った。
こんなに淋しい場所で、あたしは二年以上も一人でいたのよ。
エース。あんたの為に。


「まず、海軍から逃げなきゃならねェ。すぐ、そこまで来てる」
「あんたの仲間って事は、あたしも海賊なのね」
「海賊に海軍はつきもんだ。諦めろぃ」
「厄介なオマケがつくのね」


ようやく、こちらに顔を向けたは疲れた顔をしていた。
それでも笑み、立ち上がる。
その表情に切なくなったが、そんな心情を気づかせるわけにはいかない。
俺の背に乗れといい、すぐに視線を逸らす。
の手が触れた。それだけでいい。
過去の清算をしたかったのは自分の方だと、
喉元まで出かけたがぐっと飲み込み、羽ばたく。





おっす!去年ぶり!(スイマセン)
相変わらず、この感じなのかよとお思いでしょうが、
今年もがぜん、エースを引き摺る体でいきたいと思ってます

2012/2/12

AnneDoll/水珠