すべての嘘を暴きあっていた








あの男が最後の最後に、泣き言を口にした理由は何だったのだろう。
本心か否かも分からず、只々疑問だけが残った。何故。
やる事なす事全てに理由付けをしたがらなかったのは
それこそローの方で、だからも理由を探さなくなった。


何かしら心の奥の方には思いを抱いているのだろうし、
恐らくローはそれを知らせるつもりがない。
何の為に海を渡るのか、そんな目的さえも告げないのだ。
だからも口にはしない。
こちらだけが腹を割ってたまるか。


そうこうしていれば、この状態は果たして何なのか。
そんな事を考えるようになる。
何一つ分かり合わない状態で、これは仲間なのだといえるのか。
そんな、愚問を。


同じ船に乗り込んではいるものの、ローに背中を預けた事はない。
その逆も又、然りだ。
悲しくはない、悔しくはない。何も思わない。
そう、思い込んでいたのだ。
何も感じないから、何をしてもいい。
何も感じないのだから、どんな思いも抱いていないに違いない。
どの道、人間の記憶なんて非常に曖昧で、あてにならないものだ。
あの時、ローが何をどう言っただとか、自分がどう答えただとか。
言葉だけなら兎も角、感情の有無までは計り知れない。


だから、今、困惑している。
何故、ローはこちらに刃を向けているのか。
首元に突きつけているのか―――――


「…何なの」
「そんなもんは、こっちの台詞だ」
「あんた、あたしに執着なんてしてないでしょ」
「何で逃げ出す」
「別に」


理由なんてないわよ。


「裏切り行為はご法度だろ」
「裏切りって、何をよ。仲間を裏切ったらの話でしょ」


あたしがあんた以外の誰と寝ようが、そんなものは関係ないでしょう。


「そいつは大した言い分だな」
「あんただって、同じ事してるじゃない」


心はいつしか壊死し、何も感じなくなる。
感じてはならないのだと錯覚する。
傷つくからだ。深刻なダメージを被る。
それから立ち直るには甚大なパワーを必要とするもので、
それだけの蓄えのないは、壊死する道を選んだ。


「お前の言い分は、道理が通っちゃいねぇ」
「はあ?」
「お前は、俺の行動に口を出さなかったんじゃない、出せなかったんだろ。恐ろしくて。
 けど、俺は口を出すぜ。恐ろしくもねぇし、俺が言った事が絶対的に正しいからな。
 俺は俺の嫌がる事をお前にされちゃ困るんだよ」
「勝手な男ね、相変わらず」
「だから、お前が他の男と寝るとなりゃあ、その男も殺さなきゃいけなくなるし、
 その為には睡眠時間を削って動かなきゃならねぇ。
 正直なところ、どっちも嫌だが、優先順位的にお前が他の男と寝る方が上だ。
 だから、わざわざこうやって止めに来てる」


つらつらと、よくもここまで身勝手な言い分を口に出来たものだと、我ながら思う。
それでも。それでも、ここまで馬鹿正直に打ち明ければ、
が受け入れざるを得ないと知っている。
この女は非常に賢く、それでいて馬鹿みたいに優しい。
捨てきれない。こんな、卑怯な真似をする男さえも。


「…殺されちゃ、かなわないわね」
「だったら、やめときな」
「そうね」


溜息混じりにが呟き、ようやくローは刀を仕舞った。
挨拶程度に抱き締めあい、そうしてシャワーに行くを見送る。
こんなやり方が正しいだなんて、到底思えないが、
何故かまかり通ってしまうものだから抜け出せないでいる。
どちらの泥濘に嵌ったのかは、あえて考えないようにしながら、ドアを閉めた。





そうして、ローも相変わらず。
眠い目をこすりながら
刃物を向ける男、ロー(ロー故許される)

2012/2/12

AnneDoll/水珠