愛し合うしか術がなかった








約束を破られる事は、一つの理由を除き、そうない。
スモーカーは基本的に約束を守る男だ。
約束を結ぶまでの道のりは長いが
(のお遊びに付き合うつもりがないからだ)
一旦、了承を得てしまえば難い。


それなのにまったく、今日に限って待ちぼうけを喰らってしまった。
どうして。そう聞けばお前には関係のない事だと告げられ、
まぁ二の句を告げられなくなった。
説明をするのが面倒なのか、
それとも本当にそう思っているのかは分からないが、
スモーカーはよく、そう言う。
その都度、非常に腹は立ち、そんな言い方はないと憤るのだが、
結局彼は理由を告げないのだから、幾度となく繰り返される。


まあ、実のところ明日が自分の誕生日だったわけで、
少々の事では堪えないはずの己が、相当なダメージを喰らってしまった。
子供じゃあるまいしと自身を戒めるが、
無防備なところに考えてもいない方向から攻撃を喰らったような、
まるで防御が出来ていないような、そんな感じ。
恐らくは仕事なのだと思い込む。というか、仕事なのだろう。


海軍という彼の職務は、非常に激務だ。
予定を組む事、それ事態が難しい。
何故その事を知っているかといえば、エースが教えてくれたからだ。
おいおい、お前がつるんでるあの男、海軍だぜ。
笑えない冗談だと思った。
海軍の人間ならば、どうして相手をする。


「あらァ、。置いてけぼりかい」
「…エース」
「まぁなぁ。ちょーっとばかし俺も悪いんで、相手してやろうか?」
「何の話?」
「お前、今日。突然すっぽかされたろ」
「何で知ってんのよ」
「悪り、あれ、俺のせいなんだわ」
「…はぁ!?」


エースの話はこうだ。
そういえばが最近、海軍と遊んでるぜと酒の場で漏らせば、
皆が異様に(当然だが)食いついてきた。
どういう関係なんだと聞けば、の方が一方的に好きみてェだが、
海軍って事は知らなかったし、
あいつもが俺らの仲間だって事には気づいてねぇんじゃねぇなか。
あ、けどあれだな。明日っての誕生日だよな。
流石に何かするんじゃねぇの。


恐らく、エースには悪気があったのだ。間違いない。
何故ならば、ニヤニヤと笑っているからだ。


「っつー事で、あいつが仕事になったのは、俺らのせいなんだよ」
「…エース?」
「けどな、親父もすげえ心配してて―――――」
「エース!!」


先ほどまで胸中を埋め尽くしていた、
わけの分からない淋しさは確かに吹き飛んだが(恐らく、今の怒鳴り声でだ)
次に尋常でないレベルの怒りが噴出し、
エースを追い掛け回すが、流石にすばしっこいエースは捕まらず、
只、ムダに体力を消耗するに終わった。


へとへとの状態で、取っていたホテルに戻る。
それなりの金額を使い、予約をしていた部屋だ。
一人で寝るには余りに淋しい夜になるが、
ここまで疲れていれば関係ないような気もする。


ルームキーを受け取り、エレベーターへ乗り込み、階数を押す。
数秒待ち、ドアが開いた。
ホテルの廊下は嫌になるほど静かだ。
ヒールの音の響かない絨毯の上を歩く。


「…遅ェよ」
「…え?」
「何してやがった。もう24時だぜ」


だから、こういう所がずるいのだと言っても、彼には伝わらないだろう。
きっと、当然の顔をし、何が悪いんだと答えるに決まっている。
エース達の悪巧みさえ打破するこの男に、
今なら捕らえられてもいいとさえ―――――
いや、それは確かに言いすぎた。


まあ、スモーカーが何をどこまで知っているのかは分からないが、
今こうしてここに彼はいるのだから、不問にする。





おお!思いがけず明るい話が!
てか、今回エース絡むなあ

2012/2/12

AnneDoll/水珠